米サンフランシスコのカントリー・ロック風のバンド、エッグズ・オーバー・イージーが1970年にレコーディングのためにロンドンを訪れたものの、計画は頓挫し、アルバイト的にパブで演奏をしていた。
そのエッグズと親交を深め、音楽的にも影響を受けたのが、当時デビューしたもののまったく売れていなかったブリンズリー・シュウォーツで、彼らと一緒にパブに出演するようになったのがパブ・ロックの始まりだったと言われる。
ブリンズリー・シュウォーツは英国パブ・ロックの元祖となり、その中心人物でベーシストのニック・ロウはパブ・ロックを象徴するアーティストとして知られている。
50～60年代のポップスを基調にした、彼の音楽性の幅の広さはその1stアルバム『ジーザス・オブ・クール』を聴いただけでわかる。
そのジャケット・デザインにも象徴されるように、様々なロック・ポップスのスタイルで楽曲を書き分け、歌い分けるのが彼の真骨頂と言える。
また、そのポップ・センスと音楽的知識、技術を生かし、プロデュース業でも活躍した。
1977年に発表された、ロンドン・パンク最初のアルバム、ダムドの『地獄に堕ちた野郎ども（Damned Damned Damned）』を筆頭に、エルヴィス・コステロの最初の5枚のアルバム、グレアム・パーカーやドクター・フィールグッドのアルバムなどをプロデュースし、英国のパブ・ロックやパンク界隈では兄貴分的存在だった。
わたしは一度だけ彼の弾き語りライブを観たけれども、ポップ・ソングを歌うために生まれてきたような彼の声の素晴らしさも印象に残っている。
今回は1976年以降の、ソロになってからのニック・ロウの楽曲から、わたしがお薦めする最初に聴くべき名曲5選を紹介したいと思います。
So It Goes
ブリンズリー・シュウォーツの解散からおよそ1年後にリリースされた、ニック・ロウのソロ・デビュー・シングル。彼自身も設立に関わった英国のインディ・レーベル、スティッフ・レコードが初めてリリースしたレコードでもあった。
ポップでキャッチーだけれどもそれだけじゃない、という面白味もあるのがいかにもニック・ロウらしい。
Heart of the City
「ソー・イット・ゴーズ」のシングルのB面として発表された、まるでパンク・ロックのようなスピード感の痛快ロックンロール。わたしはニック・ロウの曲ではこれがいちばん好きかな。
I Love the Sound of Breaking Glass
1stアルバム『ジーザス・オブ・クール（Jesus of Cool）』からのシングルで、全英7位と初のヒットとなった。エレガントな感じのポップスだけど、やっぱり一筋縄ではいかないひねりスパイスも効いている。
Cruel to Be Kind
全英12位、全米でも12位となった、ニック・ロウ最大のヒット曲。
元々はブリンズリー・シュウォーツの同僚、イアン・ゴムと共作した曲で、お蔵入りになっていたものをレコード会社がリリースするようニック・ロウを説得したという。
ポップ・ソングのお手本のような、何度聴いても飽きない名曲だ。
PVの結婚式に出てくる相手女性は、この当時実際にニック・ロウと結婚した、カントリー・シンガーのカーリン・カーターだ。カーター・ファミリーのジューン・カーターの娘で、ジョニー・キャッシュの義理の娘でもあった。
(What’s So Funny ‘Bout) Peace, Love & Understanding
最後はやはりこの曲。ブリンズリー・シュウォーツ時代の曲だけれど、ソロになってからもこの曲だけはライヴで歌い続けており、様々なアーティストがカバーするなど、ニック・ロウの代表曲として知られている。
下の音源は1982年にリリースされた2枚組シングル『My Heart Hurts』のD面に収録された、1982年2月10日クリーブランドでのライブ録音だ。ライヴの終盤なのか、ニックのヴォーカルはややお疲れ気味ではあるけど、バンドの演奏はテンション高く引き締まった演奏だ。
「ピース、ラヴ・アンド・アンダースタンディング」の過去記事はこちら
選んだ5曲がぶっ続けで聴けるプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。
♪プレイリスト⇒ はじめてのニック・ロウ【必聴名曲5選】はこちら
入門用にニック・ロウのアルバムを最初に聴くなら、ベスト盤よりも1stアルバム『ジーザス・オブ・クール（Jesus Of Cool）』がお薦め。彼の音楽性の幅の広さ、引き出しの多さを楽しめる代表作で、パブ・ロックを代表する名盤でもあります。
（by goro）