ブリンズリー・シュウォーツ/ドライ・ランド(1972)

シルヴァー・ピストル

【パブ・ロックの快楽】
Brinsley Schwarz – Dry Land

「英国のザ・バンド」とも呼ばれたブリンズリー・シュウォーツは、彼らの目指す英国流カントリー・ロックにぴったりのギタリスト、イアン・ゴムを加えてソングライターをニック・ロウとイアン・ゴムの2人体制とし、ノースウッドの借家で共同生活しながら録音したのが彼らの最高傑作である3rdアルバム『シルヴァー・ピストル(Silver Pistol)』だ。

これを聴いていると、なんというか、欲のないピュアな人たちなんだなあとあらためて感心してしまう。当時のイギリスはハード・ロックやグラム・ロックが全盛の時代だ。こんな音楽をやっても売れもしないしモテもしないだろう。まるでテレビ東京の『日本に行きたい人応援団』に出てくる、跡継ぎもいない伝統工芸職人に弟子入りする奇特な外国人のようだ。

でも彼らのピュアな情熱と音楽はちゃんと東の果ての島国の、やっぱりモテもしないし売れもしない20代の若者には届いていたのだった。このアルバムはわたしにとって、パブ・ロックのアルバムで最もよく聴いたもののひとつだった。

この曲はイアン・ゴムの作で、アルバムのオープニングを飾る、陽気なカントリー風ワルツだ。
パブで演奏するうちにその雰囲気や客層に合った作風にもなってくるものなのか、ビールを飲みながら聴くのにぴったりの、ガヤガヤとした酔客たちのおしゃべりが聴こえてくるような、雰囲気たっぷりの楽曲だ。