マニック・ストリート・プリーチャーズ/オータム・ソング(2007)

SEND AWAY THE TIGERS: [12 inch Analog]

【21世紀ロックの快楽】
Manic Street Preachers – Autumnsong

『センド・アウェイ・ザ・タイガース(Send Away The Tigers)』からのシングルで、全英10位のヒットとなった。

アルバムは「初心に戻り、得意とする巧みかつ解りやすいロックを目指した」と本人たちが語るように、この曲もまた、骨太でキャッチーなフレーズのギター、胸が熱くなるメロディ、そしてドラマチックなアレンジと、マニックスの真骨頂と言える。

この当時でデビューから16年が経ち、8枚目のアルバムにしてなお若々しく瑞々しい、熱い音楽を生み出しているのは驚異的なことだ。
ロックバンドにありがちな「初期の頃がキャリアのピーク」ということはマニックスに関してはまったく当たらない。彼らは成長するにつれ、より広い層に感動を与える優れて生々しい「歌」を生み出してきた。

そしてこの曲の歌詞は、初期のバンドの顔だった、リッチー・エドワーズへのメッセージのようにも聴こえる。

夜のように暗い目をして
顔を好きに塗りたくった
憎しみから生まれたような愛を纏い
破壊するために生まれ、創造するために生まれてきた

毎年この季節になると、きみは自暴自棄になっちまった
オイ、髪を一体どうしちまったんだよ!

この秋の歌を聴いたら
目を覚まして、また走り出してほしい
この秋の歌を聴いたら
最高の時はまだ来ていないと、思い出してほしい

(written by James Dean Bradfield, Sean Moore and Nicky Wire)

「デビュー・アルバムで1位を獲って解散する」という前代未聞の解散宣言で話題になっていた頃、雑誌記者に「本気なのか?」と訊かれて、自らの左腕に剃刀で「4REAL」と切りつけ、18針を縫う大怪我をした、マニックスのサイド・ギターと作詩、そしてバンドのイデオロギーを担当した、リッチー・エドワーズ。彼はもともと他の3人とは幼なじみで、最初はバンドのために運転手やローディーを務めていたが、ギタリストがひとり抜けたために、替わりに加入することになった。だからギターはあまり上手くない。

リッチーはドラッグやアルコール依存、鬱病、リストカットなど精神的なトラブルが絶えず、更生施設に入所するなどしたが、アメリカ・ツアーに向かう予定だった1995年2月1日、髪をスキンヘッドにしたリッチーは、ジェームスと共に宿泊していたロンドンのホテルから失踪し、行方がわからなくなってしまった。彼はホテルを朝7時にチェックアウトし、彼の車は有料道路のセヴァーン・ブリッジの近くで見つかった。失踪後、世界各地から目撃情報が寄せられたものの、確かなものはなかった。

マニックスは解散も検討したが、リッチーの家族からの懇願もあり、3人で続けることになった。その後、マニックスはアルバム・シングル共に全英1位を獲得するなど、真に国民的バンドへと成長していった。

そしてこの「オータム・ソング」の発表からおよそ1年後の2008年11月23日、失踪から13年後にリッチー・エドワーズの死亡宣告がされた。

現在もリッチーの印税分は、彼の家族に支払われているそうだ。

ジェームスの思いのたけを叫ぶような熱い歌声を聴き、なにも内容がない手抜きPVの映像を見ていると、ついついリッチーのことを考えてしまう。

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