マッドハニー/タッチ・ミー・アイム・シック(1988)

Touch Me I'm Sick [7 inch Analog]

【80年代ロックの快楽】
Mudhoney – Touch Me I’m Sick

米ワシントン州シアトル出身で、地元のインディ・レーベル〈サブ・ポップ〉に所属していたグリーン・リヴァーというバンドがふたつに分裂して出来たのが、マッドハニーとパール・ジャムだった。

この曲はマッドハニーとして1988年にリリースした、彼らのデビュー・シングルだ。

その1年後に、同レーベルからニルヴァーナがデビューする。マッドハニーとニルヴァーナは大の仲良しだった。音楽的にも影響を与え合っていた。

その後のグランジ・ブームでニルヴァーナとパール・ジャムは大ブレイクし、サブ・ポップはその源流として世界的な注目を浴びたが、マッドハニーはずっとマイペースだった。つまり、グランジ・バンドのひとつとして注目も浴び、それなりに評価もされていたけど、ブレイクとは縁がなかったのだ。

でもマッドハニーは、それでよかった気がする。

本人たちはどう思ってたか知らないが、売れてやろうとか、歴史を変えてやろうとか、そんな気負いは彼らからは微塵も感じられない。
マッドハニーのフロントマンであるマーク・アームはこう語っている。

「俺たちは別に画期的なことなんてなにもしてはいないよ。これまでなかったものを俺たちが発明したとか、そんなことは少しもないんだから」

ちょうどその頃大流行したTVシリーズ『ツイン・ピークス』に出てくるようなワシントン州の片田舎で、気の合う友人たちを集めて、ロックの最もシンプルな姿である昔ながらのガレージ・ロックを楽しんでいただけなのだろう。きっとストゥージズやMC5、セックス・ピストルズみたいな刺激的な音を出してみたくて。

彼らには当時の流行も、ロック・シーンもどうでもよかったにちがいない。

しかしわたしは当時の、ネオン管のようにきらびやかで、風船のように軽い、あまりロックには似つかわしくない80年代サウンドの流行にうんざりしていた。グランジ・ブームが来たとき、ようやく本来のロックの子孫を探し当てたような気がした。

アホほどファズを効かせた歪んだギターに、力任せでバカみたいに刺激的なサウンド、そしてフラストレーションが暴発したかのような気違いじみたパフォーマンス。

スタジオで最新の機械を使って作られる養殖ロックではなく、野山を走り回る野生のロックを久々に発見したような気分だったのだ。

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