ニルソン/ウィザウト・ユー(1971)

Without You

【カバーの快楽】
Nilsson – Without You
米ニューヨーク市ブルックリン出身のシンガーソング・ライター、ニルソンが1971年に発表し、全米1位、全英1位の特大ヒットとなった名曲だ。
その後もマライア・キャリーによる再度の大ヒットをはじめ、200人近いアーティストにカバーされたという、もはやスタンダード・ポップスと言っても過言ではないほどの有名曲だが、この曲のオリジナルがイギリスの不幸なバンド、バッドフィンガーであることはたぶん今ではほとんど知られていないだろう。わたしの好きなバッドフィンガーの曲に「誰も知らない」という曲があるが、まさにその通りだ。
このバッドフィンガーの世にも不幸なバンド物語については別の項でも書いたので詳細は割愛するが、しかしこの大名曲を、バッドフィンガーのプロデューサーなりレコード会社なりがシングル・カットしなかったというのもまた彼らの数ある不幸のひとつに違いない。
バッドフィンガーのメンバーでバンドのソングライターでもある、ピート・ハムとトム・エヴァンスによる共作だが、その素晴らしい才能は歌いだしの数小節のメロディを聴いただけでもわかる。そして誰の耳にも残るサビの輝かしいメロディ。
ニルソンのバージョンはそのサビをより印象的にアレンジして豪快な歌唱力で歌い、より美しくドラマチックなアレンジで、ラジオから流れてきたら誰もが釘付けになりそうなものに仕上げている。
たしかにニルソンのバージョンは完成度が高く「こりゃ売れるわ」と思うものの、バッドフィンガーのオリジナルも全然悪くない。もうちょっと知られてほしいものだ。
ついでに言うと、このニルソンによるカバーが世界的なヒットとなったにもかかわらず、作者のピートとトムには正当に印税が支払われなかったということもまたバッドフィンガーの不幸伝説のひとつであった。

↓ バッドフィンガーのオリジナル。

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