【ディランのアルバム全部聴いてみた】『セルフ・ポートレイト』(1970)

Self Portrait [12 inch Analog]

【ディランのアルバム全部聴いてみた 11枚目】
“Self Portrait”

LP2枚組24曲を収録しているが、自作曲は5曲、他はトラディショナルやカントリー、スタンダード・ポップスなどのカバー、そしてワイト島フェスでのライヴ音源が4曲という内容になっている。ディラン、29歳のアルバムだ。
自作曲と言っても、1曲はオープニングの女性コーラスのみの曲だし(でもいい曲だが)、シングルカットされた「ウィグワム(Wigwam)」は歌詞が無く、ずっと「ララララ…」と歌ってるだけだ(でもいい曲だが)。

自伝では、ディランが当時の環境に悩んでいたことが書かれていて、神々しいロックスターや若者世代の代弁者のように扱われることにうんざりし、すでに結婚して子供がいたディランにとって、家の周囲にまでファンやマスコミや信者やアンチやバカが押し寄せてきたことに危機感を感じていたと言う。
当時のディランが望んだのは家族との静かな暮らしであり、人気ロックスターであることから降りたかったのだという。
だからわざと売れないレコードを作ったのだと述懐しているが、ディランのことなので本当かどうかはわからない。

でも『セルフ・ポートレイト』(自画像)というタイトルは、自嘲気味に「これがほんとのオレなんだよ」と言ってるようにとれる。ジャケットはディラン自身が描いた自画像とのことだが、デビュー以来初めて自身の写真を使わないジャケットとなった。
メッセージを発信してしまうことを完全に封じ込めるかのようなこのジャケットからは、ディランの表情も思惑も伝わってこない。

アルバムは評論家からは酷評された。「なんなんだ、このクソは」とさえ言われる始末だった。
それでも全米4位、全英1位とちゃんと売れて、ディランの望み通りとはいかなかった。

ロックではなくてカントリーやスタンダード・ポップスのカバーが多く、それも不評の要因のひとつだっただろうと想像する。当時のロック村は今よりずっと偏狭で排他的だったのだ。

わたしはこんなロックのブログを書いてるくせに、毎晩酔って寝床に着くころには古い歌謡曲を聴きながら眠ったりするので、ディランが「これも本当のわたしです」というのはすごくよくわかるのだ。

今ひとつわからないのは、ワイト島でのあまり出来の良くないライヴ音源を収録していることだ。
「これも本当のわたしです」ということなのかもしれないが、そんな失敗音源まであえて晒す必要はないだろうに。これを聴くと「わざと売れないように作った」というのも少し信じる気になってしまう。

しかしカバー曲には名曲も多いし、全体には楽しめるアルバムだ。わたしは嫌いなアルバムではない。
あんまり深く考えずに、雨の休日なんかの、時間がたっぷり余ってる午後なんかに部屋の掃除でもしながら聴くのがいいかもしれない。

アルバム全体を通して、通常のディランの声と『ナッシュヴィル・スカイライン』で聴かせたカントリー・ヴォイスを使い分けて歌っている。
サイモン&ガーファンクルの「ボクサー」のカバーでは両方の声でデュエットするという隠し芸みたいな妙技も披露している。

↓ サイモン&ガーファンクルの「ボクサー(The Boxer)」のカバーを一人二役で。

↓ 謎のシングルカット「ウィグワム(Wigwam)」。

Visited 62 times, 1 visit(s) today

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする