【昔は嫌いだったなあ】ザ・バンド/アイ・シャル・ビー・リリースト(1968)

Music From Big Pink (Remastered)

【カバーの快楽】
The Band – I Shall Be Released

1967年の後半、ディランとザ・バンドが、ディランの自宅の隣にあった〈ビッグ・ピンク〉と呼ばれた建物で多くの楽曲を録音した時期に、ディランのヴォーカルでデモ録音された曲だった。そのオリジナル・テイクは1991年の『ブートレッグ・シリーズ第1〜3集』で聴くことが出来る。

このザ・バンドによるバージョンは翌68年に、1stアルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク(Music from Big Pink)』のためにあらためて録音されたものだ。
星の数ほどある(そんなにないか)ディランのカバー・ソングの中でも最もよく知られた曲だろう。

その昔、わたしはこのザ・バンドのバージョンが大嫌いだった。小便でも漏らしたのかと思うほど情けない裏声で切々と歌うのが、なんだか哀れで聴いてられなかったのだ。
あの頃はまだわたしも若く、血気盛んで、フラストレーションの塊みたいな、刺激ばかりを欲しがるスットコドッコイだったのだろう。

でも今はこのバージョンが心に沁みる。これはわれわれのような、自由を謳歌しすぎてその有難みも忘れ、わけわかんなくなってる日本人なんかのための歌ではもちろんないのだ。

われわれなんかとはまったく違う世界で生きている、自由を求めてやまない立場の人々の歌なのだと今なら理解できるし、ある程度想像もできる。
そんな人々が、力尽きて生きることすら諦めてしまう寸前の哀歌なのかもしれないと想像すると、この哀しい裏声も胸に刺さってくる。
世界からも見て見ぬふりをされ、涙もすでに枯れ果ててしまった、そんなオリンピックどころではない人々の。

いま、ウクライナの人々はどんな気持ちなのだろうか。
四方から恐ろしい火器に囲まれ、絶望感を感じながらも逃げる場所もない人々の恐怖は想像を絶する。
戦争なんて絶対に起こるはずがないと信じ、なぜなら今どき、武力で他国を侵略するような国は世界から孤立し、自由主義諸国は団結して対抗するに決まっているから。
そう思い込んでいたら、ある日突然、狂暴な大国の軍隊に包囲されている。
しかも愛と平和を共有していたはずの自由主義諸国はなんだかんだ言い訳しながら急に距離を置き、関わることを避けようとする。世界から見捨てられたような気持ちになっているのではなかろうか。

遠い国のわれわれにできることはあるだろうか。

少なくとも、想いを共にしていることは示したい。

どうすればいいのか。

↓ 1971年の『グレーテスト・ヒット第2集』に初収録されたボブ・ディランのバージョン。ザ・バンドとは真逆のような、ディランのお出汁だけのあっさり味だが、これはこれで味わい深いものがある。

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