【きょうの余談】続・旅は続くよどこまでも〈工場人間〉

World Won't Listen (Remastered) [12 inch Analog]

ともあれ、自動車工場で働き始めてから半月が過ぎた。

前回の余談「旅は続くよどこまでも」で10回目の転職をしたことを書いたが、その記事の中ではあえて具体的な職種に触れなかったのは、もしもすぐ辞めちゃったりしたらカッコ悪いからである。

動きっぱなしの肉体労働なので最初の数日こそキツかったものの、(筋トレに通ってるのだ、そのうえお金まで貰えて、こんなオイシイ話はない)と自分に言い聞かせ、体が慣れるのを待った。

転職を重ねていると、だんだん仕事に慣れるのも早くなってくる。
どんな仕事でもそうだが、最初はそれまで使っていなかった部位の筋肉を使うので筋肉痛になるものの、慣れてしまえばどうということはない。仕事なんてなんでも慣れるものなのだ。これでわたしも当分は工場人間だ。

工場作業者と言えば、ちょうど今話題の〈底辺職〉のワースト3位に見事ランクインしているが、中卒で各種の底辺職を渡り歩いてきたわたしも、実は工場で働くのは初めてのことだ。

若い頃は、工場で働くなんてなんだか機械の一部になるみたいで、人間性が否定され、搾取される、社会主義リアリズムみたいな前時代的な労働者のイメージを勝手に想像していたものだった。それに3K(キツい、汚い、危険)なんて言われていたのでそれに怖気を振るっていたのもあっただろう。

ても実際入ってみれば、ハウス内はクリーンなものだし、安全への配慮や対策が徹底しているし、まあラクとまでは言わないけれども休みもたっぷりある。わたしが若い頃渡り歩いた底辺職はだいたい年間で60日ぐらいしか休みがなかったものだが(年48日という会社もあったな)、その倍もあるのだ。これで給料があと10万円ぐらい上乗せしてくれると最高なのだけれども、そこはもう政治家さんたちに底辺職立法でも期待するしかない。

今言われている「底辺職」の定義は「誰でも出来て、肉体労働で、同じことの繰り返し」ということらしいが、しかしそんな底辺職で働く人々の中にも、若くして有能な管理者もいれば、チームの和と職場の空気を絶妙に保つリーダーや、恐るべき技術を持つ職人や、よく気が付くパワフルな働き者も存在する。ただひたすら心優しく、新入りのことを気にかける還暦過ぎの者もいる。この仕事に充分満足している者もいれば、誇りを持っている者もいる。
本当はやめたいけれども生活のために仕方なく続けているという者もいるだろうけれども、そうばっかりではないのだ。

工場人間たちは機械の一部ではもちろんないのだが、人間はそもそも肉で出来た機械だ、という考え方はある。
これは肉体労働をしていると如実に実感するが、やっぱり腹が減ってくるとだんだんと動きも悪くなるし、頭も回らなくなっていくのを感じるのである。燃料補給しないと、ガス欠になってしまう。
あるいは、故障したり老朽したりもする。狂ったり壊れたりもする。それがまあ人間というものだ。

しかし肉の機械には、家族があったり、幸福があったり、欲望や目標があったり、それぞれに人生の物語が存在する。それは工場人間たちも同じだ。底辺職には不幸でつまらない人生を送っている人間しかいないと考えているなら、想像力が貧しすぎるだろう。若い頃のわたしのように。そんなわけはないのだ。

動きっぱなしで汗だくだけれど、たいした精神的ストレスはない。あるとしたらラインのスピードとの勝負というところだけれども、あんなうすのろ機械など慣れと人間様たちのチームワークでどうにでも攻略できる。

ちょうど今は連日の猛暑だけれども、ありがたいことに、工場には屋根と壁がある。
工場は広すぎるのでエアコンはイマイチ効かないけれども、少なくとも直射日光と雨風は凌げる。天国のようだ。

だからわたしはこの職場が嫌いではないし、まあたいしたことが出来るわけでもないので誇らしいとまでは言わないけれども、底辺職であれ、人間として恥ずかしい仕事はしていないと思える。
大汗をかき、疲労困憊で帰宅して飲むビールの美味さはまた格別だ。この幸福の瞬間があるなら、底辺の人生も悪くない。

仕事を終えて退勤すると、作業現場から工場の門を出るまでに8分ぐらい工場内を歩かなければならない。途中で冷水機の水をガブ飲みしつつ、歩き続けてやっと工場の門を出るが、今度は駐車場まで7分ぐらい歩かねばならない。疲れた脚で歩道橋を昇ったりするのは結構キツい。

だからわたしは門を出たところでワイヤレスイヤホンを耳に装着して、スマホで音楽を聴きながらその駐車場までの7分を歩く。
いろいろ試してみてるけど、今のところ、ザ・スミスの音楽がなぜかしっくりくる。

(by goro)

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コメント

  1. G-大将 より:

    再就職、おめでとうございます。なんだかんだ言っても良さげな会社に潜りこんだようですね。休日が私の倍以上あるではないか!とはいえ、食うために仕事するのは、一緒って言えば一緒か?あと、先日は親娘でお越し頂いてありがとうございました。嬉しかったなぁ!長く店やって良かったとつくづく思った。

    • ゴロー より:

      たしかに感慨深いよね~。

      G-大将と知り合ったのが17歳の時で、あれから38年だからなあ。

      でも娘が生まれたときに、こいつが20歳になったら、まず最初にGで一緒に飲もうっていうのは決めてたからね。それがちゃんと実現したのもまた感慨深いわ。

      あと、何気にG-大将がわたしのブログを毎日のようにチェックしてくれてるっていうのも意外で嬉しいわ(笑)