1984年の就職【死ぬまでにもう一度見たい映画を考える】その2

インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説 (字幕版)

少年時代には気持ちの悪い映画が2本だけという記憶しかない、身も心も貧しく、映画に無縁の生活だったわたしがやっと映画を観るようになったのは、17歳のときに地元の映画館に就職してからだ。映画のことなんて何も知らなかったが、17歳にしてはや路頭に迷い、仕事を探していた時にたまたま応募し、採用されたのだ。志望の動機も、深い考えも、なにもない。

その映画館は6つのスクリーンがある、今で言うシネコンだったが、わたしが入社したときに上映されていた映画のひとつがスティーヴン・スピルバーグ監督によるインディ・ジョーンズ・シリーズの2作目『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)だった。

従業員は映画を無料で観ることができたので、わたしは仕事終わりだったか休みの日だったかに観てみたのだが、これがもう面白いのなんの。たぶん生まれて初めて「あっ、映画ってこんなに面白いのか」と思ったことをはっきり憶えている。

【スティーヴン・スピルバーグ】

そうやって勤め先で上映されている映画を、最初はなんでもかんでも観ていたのが、数年も経つと、だんだん自分なりに好みも出来てきて、当然だが選んで観るようになる。

わたしにとって映画はまず大きく分けて2種類あって、それは「撮り方にこだわって映画を撮っているもの」「物語の説明のために映像を撮っているだけのもの」だった。わたしは前者を好むようになって、その撮り方にこだわる監督に興味を持ち、観る映画を監督で選ぶようになっていく。

過去の作品がレンタルビデオで観られる時代になってから、スピルバーグ監督の過去作も遡って見たが、彼もやはりこだわって撮るタイプの、ジョン・フォードやクリント・イーストウッド、マーチン・スコセッシなどと同様、正しいアメリカ映画をしっかりとこだわってつくり上げる、エンターテインメントと芸術を両立した職人タイプの作家監督だと思った。

激突! (字幕版)

もちろん、大好きな作品もそうでもないのもあるけれども、死ぬまでにもう一度見てみたいのは、『激突』(71)、『続・激突!/カージャック』(74)、『未知との遭遇』(77)、『インディ・ジョーンズ』(81-)シリーズ全部、『シンドラーのリスト』(93)、『プライベート・ライアン』(98)、『マイノリティ・リポート』(02)、『宇宙戦争』(05)、あたりだ。『ジュラシック・パーク』(93)は近年娘と一緒に再見して、あらためて楽しんだのでもう充分だ。

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【ロバート・デ・ニーロ】

わたしが映画館に就職したのは1984年の夏だったが、その下半期に上映した映画の中で特に印象に残っているのがセルジオ・レオーネ監督のノスタルジックなギャング映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』と、フィリップ・カウフマン監督の『ライトスタッフ』だ。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ(字幕版)

タイトルも長ければ上映時間も長い『ワンス・アポン…』は3時間半の長尺だったが、わたしはこの映画でロバート・デ・ニーロという俳優を知り、好きになった。わたしが初めて好きになった映画俳優で、この人の映画を追いかけて観るうちに大好きな監督のひとりとなる、マーティン・スコセッシ監督を知ることにもなる。スコセッシ監督のことはあらためてまた書くが、ロバート・デ・ニーロ主演の作品でもう一度見たいと思うものはほとんどスコセッシ監督作品のものばかりだ。『ワンス・アポン…』は別の監督だけど、もう一度見てみたいかな。長いけど。

ライトスタッフ (字幕版)

『ライトスタッフ』(83米)はサム・シェパードという魅力的な俳優が主演の、有人宇宙飛行計画に従事した7人の宇宙飛行士の実話を基に描いた感動的な作品だった。SFではない。描写にリアリティがあり、緊張感のある物語だった。当時のわたしにとってはその年一番の映画だった。これはぜひもう一度見てみたい作品だ。

これを撮ったフィリップ・カウフマンという監督は後に『存在の耐えられない軽さ』(88米)という映画も撮ったが、わたしは見逃した。どこでやっているのか知らなかったのだ。その『存在の耐えられない軽さ』は後年原作を読み(もちろん翻訳だ)その作者であるミラン・クンデラのファンになり、続けて何作か読んだものだ。映画はいまだに見ていない。

【スタンリー・キューブリック】

映画館に勤めて1年もすると、だんだんそこの上映作品だけを見るのに飽き足らず、古い名作をリバイバル上映(昔はよくあったのだ)している映画館まで足を運ぶようになった。

2001年宇宙の旅 (字幕版)

そんなリバイバル上映で観たキューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(68米)、コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(72米)は、なかなかの衝撃だった。

スタンリー・キューブリック監督作なら、この『2001年宇宙の旅』『現金に体を張れ』(56)、『シャイニング』(80)、『フルメタル・ジャケット』(87)、はもう一度見たい気もする。

フルメタル・ジャケット (字幕版)

ただし、何年か前に『時計じかけのオレンジ』を二十数年ぶりに再見したところ、二回目でインパクトも薄れたせいか、なにか拍子抜けするぐらいたいしたことなくて失望した経験があるので、キューブリックはちょっと躊躇もするのだ。

【フランシス=フォード・コッポラ】

ゴッド・ファーザー(吹替版)

フランシス=フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』の1と2はすでに二回ずつ見ているが、たぶんこれはもう一回見てもまだ楽しめるはずだ。どちらも凄い映画だ。重厚で、リアリティがあり、緊張感が漲っている。3はもう見なくても構わないけれども。

地獄の黙示録 ファイナル・カット(字幕版)

コッポラは他には『地獄の黙示録』(79)、『カンバセーション 盗聴』(73)、『タッカー』(88)、はもう一度見てみたい。『アウトサイダー』(83)と『ランブルフィッシュ』(83)は微妙だ。もう今更見てもちょっと無理かもしれない。わたしはもはや若者ではないから。

監督作ではないけれども、コッポラが脚本を書いてアカデミー作品賞を受賞した『パットン大戦車軍団』(70)は凄く良かった。きれいな映像だった。これはぜひもう一度見たい。

パットン大戦車軍団 (字幕版)

コッポラの製作でジョージ・ルーカスが監督した『アメリカン・グラフィティ』(73)は2年ほど前に再見したものの、しかしこれは退屈してしまった。もはやわたしが若者ではなく、心まで汚れた薄汚いジジイだからだろう。

(goro)

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