1989年 邦画新時代の始まり【死ぬまでにもう一度見たい映画を考える】その7

【ブルース・ウィリス登場】

ダイ・ハード (字幕版)

1989年、昭和が終わり、平成の時代の始まりである。

2月に公開されたジョン・マクティアナン監督の『ダイ・ハード』(’88)は、ブルース・ウィリスという新たなアクション・スターを世に送り出した。
当時わたしが勤めていた映画館でも上映していたので、一通り見た後も、好きなレコードを毎日聴くみたいに、退勤後や休憩時間などにちょこちょこと覗いては楽しんだものだ。この時代のアクション二大巨頭、スタローンとシュワルツェネッガーはあまり好きではなかったけれども、ブルース・ウィリスはわりかし好きだった。この、まだ髪があったころの彼をもう一度見てみたい。

ダイ・ハード2 [DVD]

レニー・ハーリン監督の『ダイ・ハード2』(’90)も傑作だったし、再びジョン・マクティアナン監督が撮った『ダイ・ハード3』(’95)はギリギリ憶えていないけれども、たしか面白かったはずだ。それから12年ぶりの続編『ダイ・ハード4.0』(’07)はさらにド派手になっていた記憶はあるものの、5作目の『ダイ・ハード/ラスト・デイ』(’13)はまったく記憶がないので、見ていないのかもしれない。

去年わたしは、それまで特に好きというわけでもなかった『バイオハザード』シリーズをprime videoで6作連続で見るという荒行を楽しんだが、今年はちょっと『ダイ・ハード』シリーズを5作連続で見てみようか。

【社会派監督 アラン・パーカー】

ミシシッピー・バーニング [DVD]

アラン・パーカー監督による社会派サスペンス『ミシシッピー・バーニング』(’88)は3月公開だ。アメリカ南部で公民権活動家たちがKKKらしき連中に殺害された事件をモデルにした物語で、ジーン・ハックマンとウィレム・デフォーという魅力的なコンビが主演だ。わたしはジーン・ハックマンも好きだ。彼が出演していると、もうそれだけで名作の香りが漂い出す。存在感がすごい俳優だ。

ミッドナイト・エクスプレス AE [DVD]

アラン・パーカー監督では他に、『バーディ』(’84)、『ザ・コミットメンツ』(’91)、『ライフ・オブ・デヴィッド・ゲイル』(’03)なんかも良かったけれども、もう一度見たいとなると、トルコで投獄されたアメリカ人旅行者の、現地の刑務所での悲惨極まりない体験を描いた『ミッドナイト・エクスプレス』(’78)、かな。

ピンク・フロイドの『ザ・ウォール』(’82)も監督しているけれども、未見だ。ピンク・フロイドの音楽は好きだけれども、ロック・オペラ的な作品の映像化というものにはだいたいあまり良い印象がないので、これも気が進まないのだ。

【ティム・バートンのバットマン】

バットマン (字幕版)

マイケル・キートンがバットマンを演じ、ジョーカーをジャック・ニコルソンが演じた、ティム・バートン監督の『バットマン』(’89)も好きな映画だった。音楽はプリンスだ。暗くて、狂ってて、とてもヒーローものらしい痛快さはないが、実はアメコミヒーローものがあまり好きじゃないわたしにはそれが新鮮でよかったのだ。続編の『バットマン・リターンズ』(’92)も良かった記憶がある。

2005年以降の、クリストファー・ノーラン監督によるあの素晴らしい《ダークナイト・トリロジー》の三部作を見てしまっているので、それには到底及ばないとは思うものの、ティム・バートン版もあれはあれで個性的で変態的で、見所はあると思うのだ。それを確かめる意味でももう一度見てみたい。

マーズ・アタック! (字幕版)

ティム・バートン監督作は他に、ジョニー・デップの白塗り主演作が幾つかあるが、その中では『シザーハンズ』(’90)なども印象に残っている。もう一度見たいとなると、火星人を平和的・友好的に迎えようとしたアメリカ大統領と地球代表団を火星人があっさり皆殺しにする捧腹絶倒の『マーズ・アタック』(’96)だな。

【26歳のスティーヴン・ソダーバーグ】

セックスと嘘とビデオテープ [DVD]

この年のカンヌ国際映画祭でグランプリに輝いたのは、26歳の若者、スティーヴン・ソダーバーグが低予算で撮ったデビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』(’89)だった。クールでお洒落な雰囲気をまとったド変態映画だった覚えがあるが、若き天才はこの後当然のようにハリウッドの出世の階段を昇り詰めていく。

エリン・ブロコビッチ コレクターズ・エディション [DVD]

社会派の実話ドラマ『エリン・ブロコビッチ』(’00)はようやくジュリア・ロバーツに代表作として誇れる役を与えたし、麻薬の密輸をテーマにした『トラフィック』では、37歳にしてアカデミー監督賞を受賞した。
他にもジョージ・クルーニー主演の『アウト・オブ・サイト』(’98)や大ヒット作『オーシャンズ11』(’01)シリーズ、チェ・ゲバラの半生を描いた『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳別れの手紙』(’08)、パンデミックの恐怖を描いた『コンテイジョン』(’11)など、どんなテーマであろうと映像へのこだわりとエンターテインメント性を両立し、多作でありながら必ず一定以上のクオリティを超えてくる。ファミリー向けなのに高級店並みにこだわった食材の凝った料理が出てくる、コスパ最高な大衆レストランみたいなものだ。

Traffic (字幕版)

あとこの年は『ニュー・シネマ・パラダイス』(’88)とか『バグダッド・カフェ』などの単館上映作品の大ヒットが続き、”ミニシアター・ブーム”の絶頂期となっていたが、この辺の作品は当時はまあ楽しんだけれども特にもう一度見たいとまでは思わない。

座頭市、利休

座頭市(デジタルリマスター版) [DVD]

この年は邦画に注目すべき作品が多くあった。

まず、勝新太郎が監督・主演した『座頭市』(’89)が素晴らしかった。これは当時ではなく、後にビデオで見たのだけれども、日本はもちろん海外の映画人にまで影響を与えているその理由がよくわかった。これも未だに見る機会がないままだが、勝新太郎の初監督作品『顔役』(’71)もいつか必ず見たいと思っている。

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そして時代劇でもうひとつ、勅使河原宏監督で三國連太郎が主演した『利休』(’89)もとても楽しんだ記憶がある。時代劇をあまり見ないわたしが、大好きな作家、赤瀬川原平が脚本を書いたというので見てみたのだ。もう一度あの独特の世界を堪能したい。

悲しきヒットマン [DVD]

三浦友和主演の『悲しきヒットマン』(’89)は、われわれの世代ならみんな知ってる山口組と一和会の抗争の実話を描いたヤクザ映画だったが、それまでのヤクザ映画とはひと味もふた味も違う新鮮な作品で、この頃からリアリティを追及したクールなアクション映画の新しい波が拡がり始めたように思う。

邦画の新時代

阪本順治/どついたるねん デラックス版

阪本順治監督のデビュー作で、赤井英和の俳優デビュー作でもある『どついたるねん』(’89)はわたしにとって、この年1番の作品だった。これもリアリティのある新鮮な演出や表現、演技が素晴らしい、新時代の邦画と言って間違いなかった。洋画を中心に見ていたわたしが、これからは邦画だな、と思ったきっかけの作品のひとつだった。

顔 | 松竹映画100年の100選

阪本順治監督もその後順調に出世し、数々の傑作を生みだしている。

中でももう一度見たい傑作と言えば、これも元ボクサーの大和武士主演のアクション映画『鉄拳』(’90)、強盗殺人で指名手配され、逃亡生活を送った福田和子役を藤山直美が演じた実話映画の傑作『顔』(’00)、タイを舞台に幼い子供たちの人身売買や臓器移植、売買春を描いた社会派の凄絶作『闇の子供たち』(’08)あたりか。

ファンシイダンス [DVD]

そして新時代の才能と言えば周防正行監督が世に出たのもこの年だ。

もともとはピンク映画を撮っていた周防監督の一般作デビューとなった、本木雅弘主演の『ファンシイダンス』(’89)は面白かった。わたしは洋画にしろ邦画にしろあまりコメディ映画をすすんで見ないけれども、これは大いに気に入った。

周防監督でもう一度見たいのは、同じく本木雅弘主演の『シコふんじっゃた』(’91)、わたしが日本人でいちばん好きな俳優、役所広司主演の『Shall we ダンス?』(’96)、そして周防監督の最高傑作だとわたしが思っている『それでもボクはやってない』(’07)あたりかな。ああ、あと小津安二郎監督の手法でピンク映画を撮った『変態家族 兄貴の嫁さん』(’84)も忘れてはならない。

それでもボクはやってない スタンダード・エディション [DVD]

他に『鉄男』(’89)の塚本晋也監督も含めて、邦画の流れを変えた新世代の監督たちがこの平成の始まりの年に続々とデビューしたが、もうひとり、革命的な作品を連発して世界的な評価を得ることになるあの監督もこの年にデビュー作が公開された。

わたしが最も愛する監督のひとりだが、今回はもう予定の長さを大きく超えてしまったので、またあらためてじっくりと取り上げたいと思う。

(goro)

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