ビートルズ様から頂いた屈辱の2ndシングル【ストーンズの60年を聴き倒す】#2

The Rolling Stones
Sixty Years

I Wanna Be Your Man - Wikipedia

I Wanna Be Your Man / Stoned (1963)
The Rolling Stones

side A 彼氏になりたい(レノン&マッカートニー作)
side B ストーンド(Nanker Phelge作)

ザ・ローリング・ストーンズは1stシングル「カム・オン」でデビューしたものの、それから半年もの間、次のレコード、アルバムはもちろんシングルすらリリースされなかった。

シングルヒットを狙える曲を持っていなかったからだ。

当時のストーンズはアメリカのブルース/R&Bをイギリス人に向けて演奏するバンドであり、オリジナル曲を作るという発想は無かったという。

困り果てたマネージャーのアンドリュー・オールダムは、すでに飛ぶ鳥を落とす勢いだったビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニーに頼みに行った。
そのときちょうど出来ていたアルバム用の曲がストーンズに合いそうだということで、レノンとマッカートニーは快く”I Wanna Be Your Man”を譲ってくれたのだった。

ストーンズ・ファンとしてはなんとなく屈辱的な気分を禁じ得ないエピソードだ。曲が書けないからって、あろうことかあのビートルズに頭を下げて彼らの曲を譲ってもらうなんて。ストーンズのメンバーたちもきっと悔し涙を流しながら録音したに違いない。

などと、昔は勝手に想像していたものだが、実際本人たちはそうでもなかったらしい。

ミックとキースはレノン&マッカートニーのソングライティングの能力やビートルズのハーモニーを高く評価していたし、メンバー同士もとても仲が良く、レコードの発売時期がかち合わないように連絡を取り合って相談もしていたという。

その曲をA面に収録したストーンズの2ndシングルは1963年11月1日にリリースされた。

英シングルチャート11位と、大ヒットとまで行かずとも前作を上回るヒットになった。レノン&マッカトニー様様だ。

その3週間後にビートルズがリリースした2ndアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』にはこの曲のビートルズ・バージョンが収録されている。
この両者のバージョンの違いは好対照だ。ビートルズは跳ねるようなビートでいかにもポップで聴きやすいが、ストーンズ版は音が混沌とした塊のようになっていて、ベースは激しくギターはささくれ立ち、いかにも攻撃的だ。ストーンズらしさがよく出ていると思う。

B面は作者が”Nanker Phelge”とクレジットされているが、これはストーンズのメンバーで作った初期のオリジナル曲に付された変名である。イアン・スチュワートのピアノとブライアン・ジョーンズのハーモニカを中心にした、ブッカーT.&ザ・MGsの「グリーン・オニオン」のパクりみたいなインストゥルメンタル・ブルースで、この曲が初めてのストーンズのオリジナル曲ということになる。

A面がビートルズ、B面がストーンズのそれぞれオリジナルという記念碑的なレコードとなったが、しかし当時のソングライティングのレベルの圧倒的な差がモロに出てしまったレコードでもある。その意味でも屈辱感は否めない。

でも大丈夫、そのうちすぐ肩を並べるから。

ちなみにイアン・スチュワートはデビュー前からストーンズのメンバーだったピアニストだ。しかしデビューする際に「見た目が良くないから」という今なら大問題な理由でマネージャーによって正式メンバーからは外されたという気の毒な運命を辿った。解雇された時はさぞ落ち込み、マネージャーを憎んだと想像できるが、実はそうではなかったらしい。彼は「大いに満足している」と友人のグリン・ジョンズ(ストーンズのエンジニア)に語ったという。

「おれはそもそもポップスターとして暮らすということにこれっぽっちも魅力を感じない。それにあいつらはものすごい成功を収める気がする。おれにとっては世界を見て回るのにうってつけの機会になると思う」

まさにその通りになった。彼はそのまま「6番目のストーンズ」として共に活動し、ファンからもメンバー同様に愛された。

なのにニッキー・ホプキンスやビリー・プレストンなど、ストーンズのレコードには様々なキーボード奏者が参加しているのは、イアンは自分がやりたくない曲は絶対に演奏しなかったからだという。頑固な男だったのだ。

シングル・コレクション(ザ・ロンドン・イヤーズ)(SHM-CD)

ストーンズが60年代にリリースしたシングルはこの『シングル・コレクション:ザ・ロンドン・イヤーズ』で年代順にA面・B面ともすべて聴くことができる。ストーンズ・ファン必携のアルバムだ。

(Goro)

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