マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン「ホエン・ユー・スリープ」(1991)

ラヴレス

【90年代ロックの快楽】
When You Sleep – My Bloody Valentine

1991年の大みそか、べつに誰に発表するわけでもないのに、その年のベストアルバムを選出するためにわたしはああでもないこうでもないと迷っていた。
選んで、ただそれを年の締めくくりとして、朝まで順番に聴くだけなんだけど。ひとりで。

U2のアクトン・ベイビー、スマパンのファースト、レッチリのブラッド・シュガー、TFCのバンドワゴネスク、プライマルのスクリーマデリカなど後世に残るアルバムが数々発表された「1977年以来の大豊作」となった年だったが、1位に選ぶべきアルバムをニルヴァーナの『ネヴァーマインド』にすべきか、マイブラの『ラヴレス』にすべきかで最後まで悩んだものだ。

どっちにしたかまでは覚えてないが、まあそれぐらいどちらも衝撃的に斬新な世界観を持っていた傑作で、わたしが聴いてきたロックアルバムの中でも十指に挙げたいアルバムである。

アルバムの冒頭からノイズの轟音と洪水が、まるですべてをなぎ倒し破壊する熱風のようだ。世界の終わりがドロドロと溶け出して暗黒世界になりかけていくそのときに、この曲が4曲目に光り輝きながら出現する。

轟音ノイズの向こうから弱々しくかすかに聴こえてくるその歌がとても美しく、この曲を聴くといつも、わたしはなんだかとても全身にエネルギーがじんわり湧いてくるような、ポジティヴな気分になれるのだった。

ただし、ジーザス&メリー・チェインの衝撃以来の、フィードバックノイズの轟音による新しい音響のロックはもうここに極まったとわたしは感じていたようで、それ以降はもうとくにそういうものを追いかけることは自然にしなくなっていった。

2013年、もうありえないだろうと思ってからもずいぶん経って、しかし思いがけずマイブラの新作が22年ぶりに発表された。
やっていることは22年前とほとんど変わらないようだけど、わたしは嫌いではない。
それにしても、3枚目のアルバムを出すのになんやかんやで22年もかかったなんて、いろいろなことがあったらしいけど、これだけの世界的な評価を得たバンドとしては類を見ないほど不幸に見舞われたバンドだと思う。