名盤100選 14 ボブ・ディラン『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』 1965

ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム(紙ジャケット仕様)

以前HOT DOG雄介氏が酒の席でこんなことを言ってたのを思い出す。
「ボブ・ディランを好きな女っていないよなあ」
たしかに、とわたしも同意した。

いや、いないわけはないのだ。
あれほどの大物アーティストであるし、若い頃の映像を見れば、まるでビートルズみたいに若い女の子たちがキャーキャー言いながら追いかていたりするのも事実だ。
でもディランには、単純に野暮ったいというイメージだけでなく、なにか女の子が聴きそうもないというイメージがある。
失礼ながら。
少なくともわれわれの身の回りで言えば、ディランを好きな女性など、会ったことも聞いたこともなかった。
本国アメリカではそうでもないだろうが、とくに日本では、ディランを好きな女性というのはちょっと想像がつかない。

わたしは中学のときに吉田拓郎が好きだったので、その流れでディランを聴き始めた。たぶん16歳の頃である。
拓郎に比べるとディランはもっと地味な印象を受けた。このアルバムより前の、弾き語りによる4枚はとくにそうだ。
人が言うほどの凄さがわからないので、だから歌詞の和訳を一生懸命読んでみたりした。
さっぱり意味がわからなかったけれども。

しかし後年、バーズを聴いて目からうろこが落ちた感じだった。
あらためて、ディランの真髄はあの難解な歌詞などではなく、オリジナリティあふれるポップ・ソングを書く、メロディメーカーとしての才能だと遅まきながら理解した。
いや、たぶん歌詞も良いのだろう。でもそれは彼にとって2番目か3番目の才能である。ついでみたいなものだ。

いま、久しぶりに「風に吹かれて」を聴いてみたのだけれど、この名曲もやっぱりまずはメロディの素晴らしさによるところが大きい。だからこれほどまでに有名なのだ。
そしてこの、世にも美しい反戦歌を歌う、ある意味誰も真似のできない表現力豊かな歌唱というのも軽く見てはならないと思う。
ディランはヴォーカリストとしても凄い。それはもうエルヴィス並みに凄いと思う。
このヴォーカルだからこそ、彼の歌はリアルに響く。

このアルバムは初めてディランがバンド・サウンドを取り入れた、要するにフォークシンガーからロックミュージシャンへと転向した最初の作品だ。それ以前のものとは比較にならないほど充実した内容である。
デビューしてまだ3年目という早い時期ではあるが、転向しておいて本当によかったと思う。
でなければ、70年代を迎える前に他のフォークブームで出てきたフォークシンガーたちと一緒に消えていたはずだ。
今頃はウディ・ガスリーやピート・シーガーのように伝説的なフォークシンガーとしてだけ名前が残っていたはずである。

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