【きょうの余談】タダで聴く音楽

Bootleg Series 5: Bob.. [12 inch Analog]

(写真と本文はあんまり関係ありません)

2年ぐらい前からだと思うけれども、YouTubeに公式の音楽動画が激増している。
いつもブログに音楽動画のリンクを貼り付けているわたしにとっては、動画が探しやすく、紹介しやすくなって、ありがたい限りだ。

3年ほど前に「はじめてのボブ・ディラン 名曲10選」という記事を書いたときには、どうやらディラン・プロダクションは動画の流通に滅法厳しいらしく、記事内で挙げた10曲の超有名曲の音楽動画すら見つからなくて苦労した。その挙句、紹介したいくつかの曲が動画無しというヘンな記事になってしまった。でも今では全曲、公式動画のリンクを貼り付け直した。

この公式動画というやつは、動画のチャンネル名が「Bob Dylan♪」とアーティスト名の後に♪マークが付いていたり、「Dead Boys–Topic」と、アーティスト名の後に「Topic」が付いているものだ。

公式動画は、アルバム・ジャケットの静止画で音楽だけが流れるものが多いが、PV動画だったり、少ないがライヴ動画もある。公式なのでもちろん音質も良い。

公式というからにはもちろん、動画をわれわれが再生するたびに、アーティストやソングライターの懐にはちゃんと小銭がチャリン、と入る仕組みになっている。

われわれはタダで音楽が楽しめるし、アーティストにもちゃんとお金が入る。win winである。YouTubeはこの支払いを動画につけている広告収入で賄っている。
わたしがブログで動画を紹介することが、たとえわずかでも好きなアーティストたちの収入のお手伝いをすることになるのだと考えると、俄然、意欲も高まる。もっとたくさんの人に読んでもらえるように頑張ろう、という気にもなってくる。

現在わたしのプログにリンクを貼る動画はほぼすべて公式動画を選んで貼っているし、以前のように、好きなアーティストの動画を、違法アップロードかもしれないと思いながら見る後ろめたさもなくなりつつある。良い世の中になったものだ。今の若者を羨ましく思う。

わたしの少年時代には、音楽は主にラジカセで楽しんだ。
レコードは高かったので滅多に買えず、ラジオから流れる音楽をカセットテープに録音し、何度も何度も繰り返し聴いた。

それももちろん音楽をタダできいていたわけだけど、YouTubeと決定的に違うのは、こちら側から聴きたい曲を選べないことだ。
聴きたい曲があったとしても、ラジオで流れるのをただひたすら待つしかない。だから「週間FM」や「FM fan」といった、FMラジオの番組表や詳しい放送内容を掲載した雑誌が発行されていたのだ。われわれはその番組表の小さな文字を隅々までチェックしながら、「最新洋楽ロック特集」だの「チープ・トリック特集」だのという文字を見つけては興奮しながらマーカーを引いていたものだった。

しかし今はYouTubeなら、自分の聴きたいアーティストや聴きたい曲を、検索してクリックするだけで聴けるのだ。音質はそりゃCDなどに比べたら落ちるけれども、昔のラジオをエアチェックしたカセットテープの音よりはだいぶマシだ。

今の時代の若者は当たり前に感じているかもしれないけれど、音楽好きにとっては本当に幸福な時代だ。

たとえばわたしが40年かけて聴いてきた量の音楽を、今の若者ならたぶん4~5年もあればすべて聴き尽くせるのではないか。

ただ、それが本当に羨ましいかと言うと、リアルに考えると、まあ一概にそうとも言えないけれども。

ラジオの放送日を心待ちにしながら、少しずつカセットテープに音楽を集めたり(丁寧にインデックスカードも書いて)、なけなしのお金を握りしめて中古レコード店をはしごして回ったり、そんな手間暇をかけた結果に出会った音楽に対する歓びは、音楽との出会い方の経験として、貴重なものだった。

カセットテープは気に入らない曲だけ削除したりなんてことも簡単にはできなかったりするので、あまり好きじゃない曲が間に挟まっていてもそのままだった。
なけなしのお金で買ったけど結局よくわからなかったレコードは、それでもせっかく買ったのだからととりあえず繰り返し聴いた。
そんな風に「仕方なく」聴いているうちに、初めはよくわからなかった音楽もいつのまにか好きになっていた。
その感動的な感覚は、音楽との出会いやアクセスが今ほど簡単じゃなかった時代だったからこそ感じることが出来たものだろう。

今の若い人は「仕方なく」聴くなんてことはきっと無いだろう。

今では考えられないほど音楽の価値が高かった、音楽デフレの時代の話だ。今はたぶん、音楽はスーパー・インフレ状態なのだ。

もちろん、テクノロジーの進歩によって、素晴らしい音楽に誰もが簡単にアクセスできるようになったのは凄く良いことだと思う。YouTube万歳、サブスク万歳、だ。こんな世界の到来をわたしは夢見ていたのも事実だ。

でもどういう形でもいいけど、音楽から魂が震えるような感動を受ける経験だけは無くならないでほしいなあ。

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