クロスビー、スティルス&ナッシュ/木の舟(1969)

Crosby, Stills & Nash

【60年代ロックの快楽】
Crosby Stills & Nash – Wooden Ships

CS&Nの1stアルバム『クロスビー、スティルス&ナッシュ(Crosby Stills & Nash)』収録曲。アルバムの中でも最もロック色の濃い曲だ。その歌詞の内容が注目を集めた曲でもある。

CSN&Yも出演しているドキュメンタリー映画『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』でもこの曲が選曲されたのは、その歌詞の世界観が時代を象徴するものだからということもあるのだろう。

歌詞の舞台は、核戦争後の地球。放射能に汚染されて荒廃した、もはや勝者も敗者もない滅びゆく世界で、かつての敵味方だった若者が出会い、共に生き延びようと、木の舟に乗り「どうせおれたちなんかに用はないだろう。おれたちもこんな場所には用がない」と、新たなユートピアを探して旅立つというそんな物語だ。

地球を破滅へと導きかねない科学・経済至上主義の社会からドロップアウトし、既成の価値観を棄て、多様な価値観を認め合い、自然と共生しながら精神世界を重んじるコミューンをつくって暮らしていく、そんな当時のヒッピー文化の思想に共鳴する歌詞と解釈されている。

ジャクソン・ブラウンなどはこの曲に対し、自分たちだけ逃げ出して新しいユートピアをつくるという考え方に違和感を呈して「For Everyman」を書き、元仲間のニール・ヤングも「文明を否定した楽園なんてない。くだらないヒッピーの夢だ」と断罪して「Hippie Dream」を書いた。ヤング氏は広大な農場で自然と共に暮らしているが、車好きで37台も所有しているのだ。そりゃあ木の舟なんかに用はないだろう。

とはいえ、この曲は具体的にヒッピー文化を推奨しているわけではない。あくまで詩なので、曖昧なイメージが描かれているだけで、それを当時は(今もか)そう解釈をされていた、というだけのことだ。

まあ歌詞を議論するのもロックの楽しみのひとつではあるけれども、わたしは歌詞なんてものはリスナーがそれぞれ勝手に解釈すればいいと思っていて、自分が置かれている状況に重ね合わせてみたり、個人的な想いに寄せたり、ねじまげたり、誤解したりして、自由に解釈して楽しめばいいと思っている。
歌詞の意味なんて考えずに、音だけを楽しむという聴き方ももちろんアリだし、特に洋楽の場合、いちいち歌詞なんて知ろうと思わない、というのがほとんどの日本人の聴き方だろう。わたしもそうだ。

正直、田舎のコミューンで原始共産制みたいな暮らしをするというのはわたしはちょっと気持ち悪いので、ヒッピー的な考え方にはあんまり共感できないけれど、このメロディやハーモニー、サウンドは好きだ。

若い頃に魂の底から突き上げてくるどうにも抑えようのない悩みや不安や感情は本質的にはいつの時代もそんなに変わらないものじゃないかとわたしは考えている。
その悩みや不安を解決しようとして考えたり行ったりする手段や思想が時代や地域や立場によって違うわけで、この若者たちはこんなふうに考えて解決しようとしたんだなあ、などと彼らなりの人生に対する悪戦苦闘に思いを馳せたりもする。

曲はクロスビーが作曲し、歌詞をスティルスと、ジェファーソン・エアプレインのポール・カントナーの2人で共作している。なのでジェファーソン・エアプレインも同じ年に発表した5thアルバム『ボランティア(Volunteers)』にこの曲を収録している。

↓ ジェファーソン・エアプレインのバージョン。