【ディランのアルバム全部聴いてみた】『アナザー・セルフ・ポートレイト』(2013)

Another Self Portrait

【ボブ・ディランのアルバム全部聴いてみた 57枚目】
Bob Dylan “The Bootleg Series Vol.10: Another Self Portrait (1969–1971)”

ブートレッグ・シリーズの第10集は、1970年発表の『セルフ・ポートレイト』『新しい夜明け』を中心にしたアウトテイク集だ。ジャケはディランが新たに書いた自画像らしい。ニコラス・ケイジかと思った。

「時代の寵児、若者の代弁者、ボブ・ディラン」というパブリック・イメージと過剰な期待に嫌気がさし、徹底してその期待を裏切ろうとした時期に作られた『セルフ・ポートレイト』は、ファンや評論家からは殿の御乱心と心配された作品だった。

現在のわれわれはすでにディランの音楽性の幅の広さをよく知っているし、ディランのルーツがフォークだけではないこともよく知っている。だから『セルフ・ポートレイト』を聴いても、なにがそんなに不評を買ったのかよくわからないほどだ。

それにしても、あらためてこの時代の楽曲を聴いてみると、ソングライターとしての才能はさらに成長を遂げ、きっとこの当時でディランに敵う単独のソングライターはいなかったのではないかと思うほどだ。レノン&マッカートニーもジャガー&リチャーズも2人だしね。

アウトテイクの中では「新しい夜明け」の別バージョンが面白い。ストリングスやホーンが入って、めちゃイイ感じに仕上がっているのだ。こっちを採用しても面白かったと思うけどなあ。

それにしても、こうやってレコーディングに呼ばれて、言われた通りに吹いて、そしてたぶんギャラも貰って、やっと完成したレコードを聴いてみたら入ってなかったって、その仕事のプロとしてどんな気持ちなんだろうな。わたしならしょげかえって、二度とディランのレコードなんか聴くものかと思うかもしれない。メンタルの強い人じゃないと出来ない仕事だな。

CD2枚組、35曲の収録だけど、デラックス・エディション版にはさらに、もう1枚CDが追加されている。1969年にザ・バンドと出演したワイト島ライヴ完全版(17曲)だ。

しかし、これがちっとも良くない。あの『ナッシュヴィル・スカイライン』のときに聴かせた「いい声」で全編歌おうとしているのだけど、ただただ覇気のないヴォーカルに聴こえるだけで、なんとも盛り上がらない。
このライヴがこんなオマケみたいな扱いになっているのはそういうことなのだ。

↓ ホーン・セクションがどっさり入っている、別テイクの「新しい夜明け」。

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