【映画】『エルヴィス』(2022 米・豪) ★★★★☆

エルヴィス の映画情報 - Yahoo!映画

【音楽映画の快楽】
Elvis

監督:バズ・ラーマン
主演:オースティン・バトラー、トム・ハンクス

公開中の映画『エルヴィス』を観てきた。エルヴィス・プレスリーの42年の生涯を描いた映画だ。

このブログでは以前に、ジョナサン・リースマイヤーズがエルヴィス役を演じた2005年のTV映画、『ELVIS エルヴィス』を取り上げたことがある。あれもなかなか良かったけれども、1969年の復活TVライヴまでしか描かれていなかったし、どう考えても怪しいマネージャーのトム・パーカー大佐が実際どういう人間で本当はなにを考えなにをしていたのか、もうちょっと突っ込んで知りたいと思ったものだった。

だから今回の『エルヴィス』は、ちょうどそんなわたしの興味と疑問に応えてくれたかのように、そのパーカー大佐にスポットを当てて描かれているのが良かったし、1969年の復活ライヴの裏側があんなだったことも驚いたし、海外での公演が一度も無く、なぜラスベガスのホテルなんぞで何年もショーを続けるだけの芸能活動になったのか、その理由もわかった。やはりすべてはパーカー大佐のせいだったのだ。よーく、わかった。ようやく納得した。

バズ・ラーマンという監督の作品にはわたしはあまり良い印象がなくて、案の定、冒頭から絢爛豪華な派手派手趣味の、装飾過剰、演出過剰、目まぐるしいカットワークに目がチカチカして悪酔いしそうな気分になったものの、物語が進むにつれ落ち着いてきて、オースティン・バトラーとトム・ハンクスという素晴らしい役者のおかげと、強欲な大佐に振り回されるエルヴィスの不本意な芸能活動、ドラッグ癖や家族との不和、裏での大佐の悪行が暴露されていく展開の物語は興味深く、よく知られている数々のエピソードもしっかり詰め込んだ濃密な物語に浸ることができた。端的に言えば、面白かったのだ。

オースティン・バトラーは歌も上手いし、あのエルヴィスの独特のアクションも滅法上手かった。スーパースターのオーラと、なのにどこか影のある表情や雰囲気が、まるで憑依したようだった。

そしてこの映画のもうひとりの主役と言えるパーカー大佐を演じたトム・ハンクスの凄さにいたってはもはや言葉もない。いつのまにかそれがトム・ハンクスだということさえ忘れてしまっていたほどだった。

それにしても、かのスーパースターは結局、デビューからほんの2~3年ぐらいしか真に幸福な時代は無かったような気がする。

人気絶頂だったデビュー3年目に徴兵されて(この映画ではそれも陰謀として描かれている)ドイツで軍務につき、その最中に最愛の母親を亡くしてからは、すべてがうまくいかなくなってしまったかのようでもある。失意と悲しみで気力を失い、大佐の思うままに操られるようになってしまったようにも見える。

「史上最もレコードを売ったソロアーティスト」であるにも関わらず、父親ともども大佐に丸め込まれ、エルヴィス自身の浪費癖も重なって、一文無しになり、家族も失ってしまった。

きっとエルヴィスは、良い意味でも悪い意味でも、どこまでもピュアな少年のような人物だったのかもしれない。

彼は母親を深く愛し、13歳のプリシラに出会って愛し、娘のリサ・マリーを溺愛し、悪行を知りながら大佐を愛し、そしてファンをとても愛した。

きっと、人を信用しすぎ、愛しすぎる、破滅的なほど心優しい男だったのだろう。

(by goro)