1986年のジム・ジャームッシュ【死ぬまでにもう一度見たい映画を考える】その4

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【ジム・ジャームッシュ】

1986年はわたしがハタチになった年だ。この年の最も印象深い映画がジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)だ。

モノクロのスタイリッシュな映像、絶妙な間とわざとらしさのない演技、無駄のないカットにキレのいい編集、音楽も効果的に使われ、とにかくクールだったことを憶えている。まったく関係はないが、まるでドクター・フィールグッドの1stアルバムのようなカッコ良さだなとも思った。

ついなんとなくロックを連想してしまうのは、主演のふたりが本職の俳優ではなく、ジョン・ルーリーはサックス奏者、リチャード・エドソンは初期のソニック・ユースのドラマーだったということもあるので、あながち間違いではないのだ。

エンドロールに使われたスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの渋いR&B「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」もすごく印象的だった。

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ジム・ジャームッシュの作品は同じくこの年に公開された『ダウン・バイ・ロー』(86)も良かった。こちらもジョン・ルーリーとそしてトム・ウェイツという渋カッコいいミュージシャンが主演に起用されている。そしてもうひとりは、後に『ライフ・イズ・ビューティフル』(97)で監督・主演を務めて世界的に評価されるイタリア人のコメディアン、ロベルト・ベニーニも強い印象を残した。

わたしはもうこの2本で一気にジム・ジャームッシュのファンになってしまい、その後の作品もすべて観た。

ミステリー・トレイン(字幕版)
もう一度見てみたい作品は上記2作はもちろんのこと、永瀬正敏と工藤夕貴が主演した(このキャストもまたクールなチョイスだ)『ミステリー・トレイン』(89)、タクシー・ドライバーと乗客の物語を5つの都市の5つのストーリーとして展開されるオムニバス映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)もいつかもう一度観てみたい。

そしてジョニー・デップが主演し、ニール・ヤングが全編アドリブのギターで音楽をつけた『デッドマン』(95)がまた、強烈な印象を残した。美しいモノクロ映像で、若い主人公の逃亡の旅は、まるでアメリカの起源へと時を遡っていく旅のようにも錯覚する、深いイメージの拡がりを感じさせるものだった。これはもう明日にでももう一度見てみたいぐらいだ。

デッドマン(字幕版)

武士道精神を説いた書物『葉隠』を愛する殺し屋(フォレスト・ウィテカー)を主人公にした『ゴースト・ドッグ』(99)も良かったが、もっと好きだったのは、冴えない中年オヤジの元に突然「あなたには19歳になる息子がいる」という匿名の手紙が届いたことで、昔の元カノ4人を順番に訪ねて事実を知ろうとするという物語の『ブロークン・フラワーズ』(05)にわたしは笑い転げ、のたうちまわった。身につまされ、元カノを訪ねて回るなんて、そんなことだけは絶対にやりたくないなあと思ったものだ。これもまたもう一度笑い転げてみたい作品だ。

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【リドリー・スコット】

この年公開されたジェームズ・キャメロン監督の『エイリアン2』については前の記事でも書いたので割愛するが、その前作の『エイリアン』(79)はすでに2度は見ているものの、まだもう一回ぐらいは観ておきたい名作だ。

あの閉所での気が狂いそうな恐怖、冷たい質感の白っぽい映像、デカいエイリアンの恐ろしさもさることながら、あのカブトガニみたいな小さいヤツの気持ちの悪さも忘れられない。なんでそんな気持ちの悪いものや気が狂いそうなほど恐ろしいものを何度も見たがるのか自分でもよくわからないが、見たいのだから仕方がない。ちなみに1作目の監督はリドリー・スコットだ。

エイリアン/ディレクターズ・カット (字幕版)

リドリー・スコット監督ではこの『エイリアン』と双璧の傑作と思われるのが、ハリソン・フォード主演、レプリカント役のルトガー・ハウアーが強烈な印象を残した『ブレードランナー』だ。これも2回は観ているが、またきっと見たくなると思う。原作者のSF作家フィリップ・K・ディックにもわたしはハマって、よく読んだが、それがこの映画の影響からだったのかどうかは思い出せない。

ディレクターズカット ブレードランナー 最終版(字幕版)
リドリー・スコット監督ではアカデミー賞を獲得した『グラディエーター』(00)や『ハンニバル』(01)も有名だが、わたしはソマリアでの市街戦をリアルに描いた『ブラックホーク・ダウン』(01)のあの極限状態の緊張と戦場の震えるような恐ろしさが忘れられない。こちらをもう一度見てみたいものだ。

ブラックホーク・ダウン (字幕版)

そしてもちろん『ブラック・レイン』(89)も良かった。松田優作が圧倒的だったなあ。もう3回ぐらいは観てると思うのでもういいかとも思うが。

ブラック・レイン (字幕版)

【松田優作】

その松田優作が監督・主演した『ア・ホーマンス』(86)もこの年に公開された。

この作品はわたしの松田優作の最も好きな作品のひとつだ。監督として、役者たちに「演技をするな」と指導したという、極端に動きも表情も乏しく、セリフの抑揚も抑えられた、すべてのムダを削ぎ落したような演技は逆に新たなリアリティを生んでいる。

暴力団組長のポール牧の冷酷な演技、その部下の石橋凌もそうだが、それまでのギラギラして騒々しいスレテオタイプのヤクザの演技を根底から覆し、映像と物語にリアリティを取り戻したものだった。この抑制された演技のスタイルは後の北野武監督や黒沢清監督などにも引き継がれていく。

ア・ホーマンス

大藪春彦原作・村川透監督の2作『蘇る金狼』(79)と『野獣死すべし』(80)はまさに松田優作しか考えられないようなハマり役だったが、その頃からすでに演技が抑制されたものになり、逆に不気味さやリアリティを生み出していたが、森田芳光監督の映画『家族ゲーム』(83)ではさらに徹底して無表情で抑揚の少ない演技を見せている。これが好きすぎて、2~3回は観ているが、何度も見たくなる映画だ。そして見るたびに、なんで今はこういう凄い役者がいないのだろうと残念に思うのだ。

家族ゲーム

【コミック雑誌なんかいらない】

邦画ではこの年、内田裕也が脚本・主演、滝田洋二郎監督の『コミック雑誌なんかいらない』(86)も公開されている。この変な映画も、もう一度見てみたいものだ。

当時実際に起きて話題となっていた事件を再現し、芸能リポーターの主人公がそれに絡んでいくという一風変わったストーリーだった。タイトルは頭脳警察の曲から取られている。

豊田商事事件、ロス疑惑、山口組と一和会の抗争、日航ジャンボ機墜落、松田聖子と神田正輝の結婚など、数々の事件や話題が取り上げられていたが、ロス疑惑では本人役で三浦和義が登場し、豊田商事事件ではマスコミ監視の前で会長を刺殺する犯人役をビートたけしが熱演するなど、なかなか刺激的な映像の連続だった。

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滝田洋二郎監督はそれまでポルノ映画しか撮っていなかったが、これをきっかけに一般映画を撮るようになり、後には『陰陽師』(01)や『壬生義士伝』(03)といった大ヒット作を撮ることになる。

中でも、アカデミー外国語映画賞や日本アカデミー賞を獲得した本木雅弘主演の『おくりびと』(08)はやはりもう一度見てみたい作品である。

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【ウィリアム・フリードキン】

もうひとつ、この年にわたしの勤めていた映画館で上映された洋画で、ウィリアム・フリードキン監督の『L.A.大捜査線/狼たちの街』(85)というあまり有名ではない映画をとても気に入っていたことを憶えている。

当時の地方の映画館というのは2本立て上映があたりまえで、メインではないほうを「添え物」などと呼んでいたが、この映画も「添え物」のほうだったように記憶している。メインが何だったのかは、一生懸命思い出そうとしているが、ちょっと無理のようだ。

主演がウィリアム・L・ピーターセンとウィレム・デフォーで、偽札犯罪を追う刑事の物語だったが、内容は残念ながらよく憶えていないものの、クールな映画の印象で、もう一度見てみたいというのは以前から思っていたものだ。

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ウィリアム・フリードキン監督は『エクソシスト』(73)が最も有名だが、これはもう2度も見てお腹もいっぱいなので、もう一度見たいのはアカデミー賞を獲った彼のもうひとつの代表作『フレンチ・コネクション』(71)のほうだ。ジーン・ハックマンがカッコ良くて、楽しく見たことを憶えているが、これもぜひもう一度見たい映画だ。

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(goro)

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