1988 初ベッソンと最後の皇帝その他【死ぬまでにもう一度見たい映画を考える】その6

映画『ラストエンペラー』 BS日テレで12月15日放送 - amass

さてこのシリーズは、映画館で10年、レンタルビデオチェーンで20年勤め、その間ほぼ毎日のように映画だのビデオだのDVDだのを見る生活をしていたものの、そんなペースで観ていれば片っ端から忘れていくのも当然で、「良かった」「面白かった」という印象だけは憶えているものの、肝心の内容はさっばり思い出せない。しかももう人生の半ばも過ぎて、いつあの世へ旅立つかもしれないこともあり、これまで見てきた映画の中から、せめて好きだった映画ぐらいはちゃんと内容も思い出してから死にたいというわけで、死ぬまでにもう一度見たい映画を考えようというシリーズです。

またわたしは、好きになったバンドやアーティストのアルバムを全部聴いていくのと同じように、好きになった映画の監督の作品を意識的に見ていくような映画の見方をしてきたので、ここでもあえて監督に注目しながら書いています。そして今回は、わたしが映画館に勤めて5年目、1988年に見た映画から。

※太字のタイトルがもう一度見たい映画。

【リュック・ベッソン】

グラン・ブルー (グレート・ブルー完全版) [DVD]

まずは実在のダイバーたちをモデルに、素潜りで深度を競うフリーダイビングにかける男達の友情や軋轢、彼らを愛した女性の葛藤を描いたフランス映画『グレート・ブルー』(’88)から。

リュック・ベッソン監督の名前はこのときに初めて知った。ジャン・レノも。美しい海の映像を堪能しながら、やはりハリウッド映画とはひと味違う、狂気へ接近し、壊れてゆく人間を描いた悲痛な物語にやられたことを憶えている。

後に完全版が『グラン・ブルー』のタイトルで公開されたけれども、そっちのほうは観ていないので、次はそっちで見てみたいと思う。

レオン 完全版 (字幕版)

その後のリュック・ベッソンの作品では『ニキータ』(’90)、『レオン』(’94)という、どちらも殺し屋を描いた話が特に印象に残っている。とくに『レオン』では、ジャン・レノもさることながら、ナタリー・ポートマンの素晴らしさが強烈な印象を残した。

12歳の少女に殺し屋の手伝いを仕込んでいくという、普通に考えたらあり得なさ過ぎて感情移入できなさそうなものを、彼女が見せるクールで大人びた表情から、感情がこぼれだす子供らしい表情への変化などの素晴らしい演技に見惚れるようにして物語に入っていけた気がする。

まだ知り合ったばかりのアパートの隣人レオンのために牛乳を買いに行き、戻ってきたら麻薬捜査官たちに家族が銃撃されている最中で、泣きだしそうになるのを堪えながら自宅の前を通り過ぎ、レオンの部屋に逃げ込むところなんか、ああもう一度見たいなあ。

リュック・ベッソンは『フィフス・エレメント』(’97)と『ジャンヌ・ダルク』(’99)が興行的には大ヒットしたけれども、ほとんど印象に残ってないので、まあいいや。

【レオス・カラックス】

汚れた血<HDニューマスター版> [Blu-ray]

前回取り上げた『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』(’86)も当時のフランスの気鋭の若手、ジャン=ジャック・ベネックス監督の作品で、俄然フランスが気になり始めたところへ、さらにもうひとりのフランスの若手監督、レオス・カラックスの『汚れた血』(’86)が公開された。

当時はこのベネックス、ベッソン、カラックスを本国ではヌーヴェル・ヴァーグ以来の新しい波として〈恐るべき子供たち〉などと呼ばれていたが、なかでもこのカラックスはロックスターみたいなトガった雰囲気で、作品も感覚的で難解な印象だった記憶がある。完全主義者でもある監督でもあり、それゆえ映像のインパクトは一番だった。物語のインパクトはあまりなかったけれども。

ポンヌフの恋人<HDニューマスター版> [Blu-ray]

『ポンヌフの恋人』(’91)も良かったけど、もう一度見るならやっぱり『汚れた血』かな。ジュリエット・ビノシュもこちらのほうがキレイだったし。

2012年公開の120年に及ぶ映画史を一気に見せていく『ホーリー・モーターズ』は未見だが、これはいつか見てみたいと思っている。

【ベルナルド・ベルトルッチ】

ラストエンペラー 特別版 [Blu-ray]

そしてこの年のアカデミー作品賞を受賞したベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラストエンペラー』(’87)は映画の魅力にあふれた、なにか高級焼肉食べ放題至福コースでも堪能したかのような満足感だった。

ただし、教養も知識もカケラも持ち合わせていない当時のわたしは歴史のことなんてなにも知らないので、たぶん物語に関してはちゃんと理解できていたとは思えない。きっと、ぽかんと口を開けて豪壮華麗な映像美に圧倒されていただけに違いない。

劇場公開された2時間40分のバージョンと、後にVHSで発売された3時間40分のオリジナル全長版の両方を観たけれども、これはぜひもう一度歴史のことも理解したうえで後者を見てみたいと思う。

あとは、20世紀前半のイタリアの激動の現代史を描いた、ロバート・デ・ニーロ主演の5時間を超える超大作『1900年』(’76)も印象に残っている。休日を一日使って、もう一度ゆっくり見てみたいものだ。

1900年 (2枚組) [DVD]

ベルトルッチ監督はどちらかというと『ラストエンペラー』以前の作品に興味があったのだけど、なかなか見る機会がなく、ごっそり見逃しているので、それも見てみたいものだ。傑作と噂に聞く『暗殺の森』(’70)とか。かなりエロいと噂に聞く『ラスト・タンゴ・イン・パリ』(’72)とか。

【マイケル・チミノ】

シシリアン [DVD]

あまり知られていない作品かもしれないが、マイケル・チミノ監督の『シシリアン』(‘87)は、あの『ゴッドファーザー』と同じ、マリオ・プーヅォ原作の実録ギャングものだ。これがなかなか良かったと記憶しているが、内容が思い出せないので、もう一度見てみたい気がする。

マイケル・チミノ監督は『ディア・ハンター』(’78)で大ブレイクし、それで調子に乗ったか、次作の『天国の門』で巨額の製作費を湯水のように使ったものの、内容は酷評され、興行的にも大失敗したことで、その後はめっきり寡作な監督となってしまった。

しかし、ミッキー・ロークのブレイク作となった『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(’85)、ももう一度見てみたいし、たぶん見逃していると思われるクリント・イーストウッド主演の『サンダーボルト』(’74)も見てみたいな。

ディア・ハンター [DVD]

【AKIRA】

そして、当時まだ連載中だった大友克洋の漫画『AKIRA』(’88)が映画化されたのもこの年だ。まだ3巻ぐらいまでしか話が進んでいない途中での映画化だったため、原作には無い、オリジナルの結末となっていた。

AKIRA 〈DTS sound edition〉 [DVD]

この大友克洋の漫画、『童夢』そして『AKIRA』の衝撃は忘れられない。ストーリーもさることながら、絵と表現の仕方がこれまで見たことのないような画期的な作品だったのだ。当時は漫画の枠を超えて社会現象のような話題となっていた。だから連載の途中でも映画化されることになったのだろう。

わたしにはめずらしくアニメ映画を劇場で観た数少ない経験だった。監督も作者の大友克洋が務めたが、結末はなんだか壮大過ぎてよくわからない印象だったけれども、でもそれも含めてもう一度見てみたい気がする。それと原作も。

【チャック・ベリーvsキース・リチャーズ】

Chuck Berry: Hail! Hail! Rock 'n' Roll [Blu-ray]

チャック・ベリーの映画『ヘイル・ヘイル・ロックンロール』(’88)は劇場では見逃したが、後にビデオで観て最高の作品だと知った。

チャック・ベリーのどんなわがままや横暴にもひたすら耐えながら彼の生誕60周年ライヴを成功させようとするキース・リチャーズのいじらしさに笑いと涙がこぼれた。音楽ドキュメンタリーもいろいろ見ているけれども、これはわたしの中でもかなりの上位の傑作。チャックvsキースの攻防をもう1回見たい。

【デニス・ホッパー】

カラーズ 天使の消えた街 [レンタル落ち]

デニス・ホッパー監督、ショーン・ペン主演の『カラーズ 天使の消えた街』(’88)ももう一度見たい作品だ。わたしはデニス・ホッパー作品が好きで、ほぼすべてを観ているはずだ。

ジョディ・フォスター主演の『バックトラック』(’89)、ニール・ヤングの楽曲からタイトルを取った『アウト・オブ・ブルー』(’80)、そして『ラストムービー』(’71)なども良かったが、もちろん最高傑作は〈アメリカン・ニュー・シネマ〉を代表する名作『イージー・ライダー』(’69)だろう。たぶんわたしはすでに3回は観ているが、またいつか観たくなるにちがいない。

この映画を観て衝撃を受けた後、わたしはあちこちのレンタルビデオ店を探し回って〈アメリカン・ニュー・シネマ〉の代表的な作品を片っ端から見ていく時期を迎える。20代はじめの頃だ。次回はそんな〈アメリカン・ニュー・シネマ〉をまとめて特集することにしよう。

イージー★ライダー (字幕版)

(goro)