アメリカン・ニューシネマの衝撃【死ぬまでにもう一度見たい映画を考える】その10

〈アメリカン・ニューシネマ〉と呼ばれた作品群が若い映画監督たちによって続々と作られた1960年代末から70年代前半にかけての時代は、アメリカがベトナムで泥沼の戦争をしていた時代だった。なぜ戦う必要があるのかすらわからない遠い国の戦地に若者たちを強制的に送り込む政府に対して若者たちが反発し、反戦平和を唱え社会からドロップアウトするヒッピー文化の流行と相まって、世代間の思想的断絶と抵抗の空気が生まれていたことが背景にあった。そのため作品のテーマは概ね反体制的であり、閉塞感に苦悩し、未来を悲観し、絶望的だったり虚無的だったりした。

当時のわたしにとって〈アメリカン・ニューシネマ〉は、反骨心旺盛なトガった作品、狂った作品の宝庫であり、当時のトガり狂ったわたしはそれらを片っ端からレンタルビデオで探して見まくった。それまでは公開される映画を劇場で観るだけだったわたしが、過去にさかのぼって映画を見始めたのはそれが最初だった。

同時期に同じぐらいハマった、フランスのヌーヴェル・ヴァーグの作品群はもう今更見返したいとはあまり思わないのに対して、アメリカン・ニューシネマの作品群はもう一度見たい作品が多い。あの切ない負けっぷりというか、勝ち目のない抵抗や、敗者の悪あがきみたいなところに共感するのかもしれない。書いてて自分でも情けなくなるけれども。

そのアメリカン・ニューシネマの最初の作品と認定されているのは、たまたま知り合った男女が強盗を繰り返しながら逃走した実話を基にした、アーサー・ペン監督による『俺たちに明日はない』(’67)だ。

俺たちに明日はない [DVD]

有名なラストシーンの銃撃が印象的だが、それと同じくらいなぜかよく憶えているのが、実はクライドがインポテンツだということがバレてなんだかしんみりするところだ。あれはあの後、ボニーが頑張って上手いこと成就したんだっけな。忘れたけど。

同じ監督でダスティン・ホフマン主演の西部劇の転換点と高い評価を受ける『小さな巨人』(’70)は機会がなくて未見だ。これは観たいなあ。

真夜中のカーボーイ [DVD]

ダスティン・ホフマンと言えば、マッチョな魅力で成功できると信じて都会にやってきた田舎者の男と病気のホームレスの友情、都会の孤独を描いてアカデミー作品賞を受賞したジョン・シュレシンジャー監督の『真夜中のカーボーイ』(’69)ももう一度見たい作品だ。

ただしダスティン・ホフマンの代表作としても有名な『卒業』(’67)は正直、あまりピンと来なかった記憶がある。そういう意味では機会があればもう一度観てみたい気もする。

明日に向って撃て! (特別編) [DVD]

ポール・ニューマン主演の『暴力脱獄』(’67)も良かったが、彼が当時無名のロバート・レッドフォードとコンビを組んだジョージ・ロイ・ヒル監督の『明日に向かって撃て』(’69)は最高だ。数あるバディものでこのコンビぐらい好きなコンビは未だにいないほどだ。これも2回は観た記憶があるけれどももう一度見たい。

スティング [DVD]

ジョージ・ロイ・ヒル監督の作品ではこれも同じくポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが共演する詐欺集団の話『スティング』(’73)ももう一度見たい傑作だった。他にもヒル監督では『スラップ・ショット』(’77)、『ガープの世界』(’82)、『リトル・ドラマー・ガール』(’82)なんかも印象に残っているが、それよりも未見の『スローターハウス5』(’72)をいつかは見たい。原作はわたしがアメリカでいちばん好きな作家、カート・ヴォネガットの名作だからだ。

イージー★ライダー コレクターズ・エディション [DVD]

そしてアメリカン・ニューシネマの代名詞的な作品で、ロック好きなら誰もが好きな名作、『イージー・ライダー』(’69)はすでに3回は見ているけれども、またきっと見たくなるに違いない。以前にも書いたが、わたしはデニス・ホッパー監督の作品が大好きだ。

自由とカウンター・カルチャーの象徴のようなこの作品の、現実には勝ち目のない抵抗や、絶望的な負けっぷりがたまらない。

ファイブ・イージー・ピーセス (字幕版)

『イージー・ライダー』にはジャック・ニコルソンも出演しているが、彼の主演作では、自身を周囲を不幸にする疫病神と自覚し、常に「ここじゃないどこか」へと逃げ回っている哀れな男の苦悩を描いた『ファイブ・イージー・ピーセス』(’70)も強い印象を残した。

Strawberry Statement (1970)

ユーミンの歌でも有名になった、コロムビア大学における学生闘争を描いた『いちご白書』(’70)は本国ではヒットしなかったらしい、日本ではヒットし人気作品となった。
それはアメリカでは学生運動の火がすでに消えていたのに対して、日本ではちょうど学生運動の盛り上がりの真っ最中だったからだろう。実話をもとに、これも学生たちの勝ち目のない抵抗と、せつないあがきが描かれている。わたしはそんな映画ばっかり好きだな。

ジョニ・ミッチェルやニール・ヤング、CSN&Yの曲が多く使われている。学生たちが先の見通しが立たない闘いに疲れ切って、教室や講堂の床やあちこちで毛布にくるまって眠りこけているシーンに流れる「ヘルプレス」にはグッときたものだ。

ラスト・ショー

ピーター・ボグダノヴィッチ監督の『ラスト・ショー』(’71)は、アメリカン・ニューシネマに括っていいのかどうかよくわからないが、わたしは同じテイストを感じていた。

1950年代のテキサスの小さな町を舞台にした青春物語で、高校卒業と同時に町を出ていくことを考えながら、そろそろ童貞を捨てたい少年や、そろそろ処女を捨てたい少女、さらに年の離れた人妻と深い関係になってしまう少年などによる、せつなく、哀しい群像劇だ。誰もが閉塞感を感じ、思い通りにならない苦悩にあふれたこの映画も、俳優たちの名演も相俟って忘れ難い傑作だ。『アメリカン・グラフィティ』(’73)にも通じる物語だが、わたしはこっちのほうが好きかな。

バニシング・ポイント [AmazonDVDコレクション]

リチャード・C・サラフィアン監督の、新車を客に届けるためとはいえ途中から警察とカーチェイスまでしながら、どうしてなのか理解できないほどただただ車を爆走させる、破滅的な『バニシング・ポイント』(’71)も大好きな映画だった。これももう一度観てみたい。

その36年後に同型のダッジ・チャレンジャーを使ってこの映画にオマージュを捧げた、クエンティン・タランティーノ監督の『デス・プルーフ』(’07)も最高だった。そういえばプライマル・スクリームにもこの作品からインスパイアされた『バニシング・ポイント』というアルバムがあるけれども、ちょっとわたしは苦手なエレクトロニカだ。

フレンチ・コネクション(2枚組) [DVD]

ジーン・ハックマン主演の『フレンチ・コネクション』(’71)もアカデミー作品賞など数々の賞を受賞した傑作だ。

1961年にニューヨーク市警察の薬物対策課の刑事がフランスから密輸された麻薬を押収した実話を元にした、実話だけに衝撃的な作品だ。主演男優賞も受賞したジーン・ハックマンの代表作と言えるだろう。わりと真っ先にもう一度見てみたいのはこれかもしれない。凄く良かったことだけは憶えているが、内容をほとんど忘れてるので。

スケアクロウ [DVD]

そのジーン・ハックマンとアル・パチーノ主演のロード・ムービー『スケアクロウ』(’73)も好きな映画だった。最後に出てくるパチーノの女房が凄絶な不細工だったのがなんだかショックだったことをよく覚えている。あれはどういう意図であんなに不細工だったのか、もう一度確かめたい気がする。

セルピコ [DVD]

アル・パチーノも好きな俳優だったが、彼の主演でどちらもシドニー・ルメット監督の、警察内の汚職に立ち向かう警察官の実話『セルピコ』(’73)、や銀行強盗の実話『狼たちの午後』(’75)も迫力と凄みのある傑作だった。これももう一度見たいものだ。

狼たちの午後 [DVD]

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