1991年、ハンニバル・レクター降臨【死ぬまでにもう一度見たい映画を考える】その11

さて11回目となる今回は、1991年に日本で公開された映画の中から、死ぬまでにもう一度見たい映画を考えてみよう。ついでにその監督の関連作品も思い出しながら。わたしは映画を監督という括りで見るタチなので。

羊たちの沈黙

この年一番の衝撃は、アカデミー作品賞も受賞したジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙』(’91)だった。理知的でありながら超凶暴で食人嗜好というハンニバル・レクターを中心とした異様な世界観に、こちらもやはり理知的かつ滅法美しいジョディ・フォスターが巻き込まれていくという、知性と狂気と変態的な欲動がごた混ぜになった、恐ろしくも扇情的な作品だった。もうひとつ、こんな気持ちの悪い映画でもアカデミー賞がもらえるんだということも驚きだったなぁ。

リドリー・スコットが監督した続編の『ハンニバル』(’01)も、ジョディ・フォスターが前作で演じたクラリス捜査官役がわたしの嫌いなジュリアン・ムーアに替わったことを除けば悪くなかったし、『羊たちの沈黙』の前日譚である『レッド・ドラゴン』(’02)、ハンニバルの幼少期から青年期までを描いた『ハンニバル・ライジング』(’07)など、全部ひっくるめて4作を娘がJKのときに一緒にぶっ続けで見直したものだが、それなりに楽しめた。まあでもさらにもう一度見るとしたら『羊たちの沈黙』だけで充分かな。

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ジョナサン・デミ監督は次作の『フィラデルフィア』(’93)でブルース・スプリングスティーンとニール・ヤングに挿入歌を依頼し(スプリングスティーンの歌がアカデミー歌曲賞を受賞)、『ハート・オブ・ゴールド 〜孤独の旅路〜』(’06)など、ニール・ヤングのライヴ・ドキュメンタリー映画を3本も撮っている。過去にはトーキング・ヘッズの『ストップ・メイキング・センス』(’84)も撮っているし、きっとロックに造詣が深い人なんだろう。『フィラデルフィア』はゲイのエイズ患者が法廷で偏見と戦う物語だが、当時の予告編で見たトム・ハンクスの姿があまりに辛すぎて見るのを躊躇ってしまった。LGBT法案に対する議論も高まる今、今更ながら見ておきたいなと思う。

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怖い映画と言えばスティーヴン・キング原作の『ミザリー』(’90)もなかなかのものだった。人気小説家が熱狂的かつ常軌を逸したファン読者に囚われて酷い目に遭う話だ。小説家役のジェームズ・カーンとファン読者の中年女性を演じたキャシー・ベイツの素晴らしい演技にも惹き込まれる。キャシー・ベイツはこの年のアカデミー主演女優賞を受賞した。監督は『スタンド・バイ・ミー』(これもキング原作だ)のロブ・ライナーだけど、わたしは『ミザリー』の方が好きだったな。

わたしはスティーヴン・キングの小説は、なんだったか忘れたけど、2作ほど読んで、どちらも分量がすごい割にはめちゃ内容が薄いなあと辟易した覚えがあり、キング作品は映画で見るに限る、という態度で生きてきたものだ。

クジョー」 の巻 映画 あらすじ | おうち映画

これ以前にもキューブリック監督の『シャイニング』(’80)や、『クジョー』(’83)という狂犬病のセントバーナードが人間を襲うという怖い映画が強く印象に残っていた。

ジョエルとイーサンのコーエン兄弟製作の映画は、この年観た『ミラーズ・クロッシング』(’90)が初めてだった。

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彼らの作品といえばオフビートなコメディやスリラーが多いイメージだが、これはめずらしく硬派なマフィア映画である。禁酒法の時代を舞台にマフィアの抗争を描いた物語だ。

他にコーエン兄弟の作品では、コメディものはあんまり好きになれなくて、『ファーゴ』(’96)やアカデミー作品賞を受賞した『ノー・カントリー』(’07)といったスリラー風のものが好きだ。このあたりはもう一度見てみたい気がする。

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なんとなくアメリカン・ニューシネマの香ばしい雰囲気が漂うような、その個性が突出していた名優、ショーン・ペンが初監督した作品『インディアン・ランナー』(’91)もとても気に入ったことを憶えている。内容はあまり覚えていないけれども。

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ブルース・スプリングスティーンの楽曲「ハイウェイ・パトロールマン」をモチーフにした、警官の兄と、ベトナム戦争から帰還したものの精神を病み、凶行に走ってしまう弟の話だ。

ショーン・ペンはその後も何作か撮っているが、『イントゥ・ザ・ワイルド』(’07)が強く印象に残っている。裕福な家庭に育ち、大学を優秀な成績で卒業した若者が、両親の期待に背いてこの世の真理を探究するために放浪の旅に出るが、アラスカの大自然の過酷な現実の中で生き延びることができず、死体で発見された実話を元にした物語だ。この2作はもう一度見たいな。

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ちょうど時期を同じくして、日本でも名優が初監督して、傑作を撮っている。竹中直人監督の『無能の人』(’91)だ。

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つげ義春の漫画を映画化したものだが、わたしはつげ義春が大好きで、当時は全作品を集めていたほどだった。竹中直人は彼の漫画を忠実に再現しようとしていて、とても嬉しくなったことを憶えている。これももう一度見たいな。

バックドラフト (字幕版)

消防士たちの活躍を描いたロン・ハワード監督の『バックドラフト』(’91)もこの年の傑作だ。カート・ラッセルとウィリアム・ボールドウィンというシブい主演キャストがまたいい。

消防士たちが火事の現場に到着して、消火活動の邪魔になる違法駐車の車のガラスをハンマーで叩き割ってホースを通すところなんか最高だったな。

ドアーズ - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画

他に『ドアーズ』(’91)というあのロックバンドを描いた映画もあった。オリバー・ストーンという監督はわたしは苦手ではあるけれども、この作品ではとにかくジム・モリソン役のヴァル・キルマーのクリソツぶりが凄くて、面白かった。恋人のパメラ役のメグ・ライアンもなかなかハマってたな。

(Goro)