荒っぽくて無骨な素のままのストーンズが堪能できる傑作【ストーンズの60年を聴き倒す】#37

Exile On Main Street (2010 Re-Mastered)

『メイン・ストリートのならず者』(1972)

“Exile on Main St.” (1972)

The Rolling Stones

ファンや評論家が「ストーンズの最高傑作」として挙げるアルバムは大抵4タイトルに絞られる。『べガーズ・バンケット』『レット・イット・ブリード』『スティッキー・フィンガーズ』、そしてこの『メイン・ストリートのならず者』だ。

4タイトルすべてがジミー・ミラーのプロデュースという共通点はあるものの、サウンドや性格はそれぞれ異なっている。中でも本作は、ストーンズでは唯一の2枚組スタジオ・アルバムということもあり、一風変わった曲やディープな曲も収録し、ストーンズのアルバムの中でも特にマニア受けするものとなっている。逆の言い方をすれば、やや一般受けしにくいものとなっている。

前年にストーンズのメンバーは、稼いだ金の99%を税金で取り上げようと企むイギリス政府から逃げ出し、フランスに移住した。本作のレコーディングはキースがフランスに構えた広大な城のような邸宅に、バンドメンバーやプロデューサー、エンジニア、ゲストミュージシャンたちが寝泊まりしながら、広い地下室で録音された。

まるで合宿みたいな和気藹々とした雰囲気かと思いきや、子供たちを寝かしつけたりヘロインを注入したりと忙しいキースをはじめ、プロデューサーもゲストミュージシャンもラリってたり酔っ払ってたり、誰がどこに行ったのかわからなくて屋敷の中を探し回ったりで、遅々として作業が進まず、雰囲気は最悪だったという。「ダイスをころがせ」や「ハッピー」など何曲かのドラムをジミー・ミラーが叩いているのは、そんな状況に嫌気がさしたチャーリーが帰ってしまったからだという。

そのような環境で録音された本作は、ラフでルーズそのものであり、商売っ気もなければ、芸術的な完成度にこだわるわけでもない、飾らない素のままのストーンズをあえて晒したような、荒っぽく無骨な生々しさがその魅力でもある。

発売当初は随分と不評も買ったらしい。
でもそれはわかる。わたしも初めて聴いたときは「なんだこりゃ?」と戸惑ったことを覚えている。演奏や録音がやけに粗く思えたし、酔っ払って歌ってるみたいに思えるものもあるし、どうしたのこれと思うぐらいのヘンな楽曲も収録されている。前作『スティッキー・フィンガーズ』にはシングルカットできそうなポップでキャッチーな曲が何曲もあったが、このアルバムにはほとんどない。

きっと当時のわたしは、いかにも商業製品的な「しっかりと作り込まれ、加工された、とっつきやすく、聴きやすいロック」を無意識に求めていたのだと思う。

本作はまったくその逆だ。たいして作り込まれてもいないし、素材のまま投げ出されたような、とっつきにくく、聴きやすさなんて考慮されていない、ましてやシングルヒットなんて狙ってもいない、素のままのローリング・ストーンズの音楽があるだけだ。
ソウルフードとジビエと釣った魚と気まぐれな料理でごちゃついた大衆酒場のメニューみたいな、気楽だが味わい深いカオスに酔える、ロック史上最もクールな名盤である。

曲を半分に削ってキャッチーなのだけを残して完成度を高めれば『スティッキー・フィンガーズ』みたいなアルバムがもうひとつ作れたかもしれないが、あえてそれをしないで、ラフな演奏や地味な楽曲もしっかり残したことに意義があった。
このあえてゴチャついたところが魅力の本作は、聴けば聴くほど面白くなったし、その無骨さと生々しさによって最もストーンズらしいアルバムと思えるようにもなった。

SIDE A
1. ロックス・オフ – Rocks Off
2. リップ・ジス・ジョイント – Rip This Joint
3. シェイク・ユア・ヒップス – Shake Your Hips (スリム・ハーポのカバー)
4. カジノ・ブギー – Casino Boogie
5. ダイスをころがせ – Tumbling Dice

SIDE B
1. スウィート・ヴァージニア – Sweet Virginia
2. トーン・アンド・フレイド – Torn and Frayed
3. 黒いエンジェル – Sweet Black Angel
4. ラヴィング・カップ – Loving Cup

SIDE C

1. ハッピー – Happy
2. タード・オン・ザ・ラン – Turd on the Run
3. ヴェンチレイター・ブルース – Ventilator Blues
4. 彼に会いたい – I Just Want to See His Face
5. レット・イット・ルース – Let It Loose

SIDE D

1. オール・ダウン・ザ・ライン – All Down the Line
2. ストップ・ブレーキング・ダウン – Stop Breaking Down」(ロバート・ジョンソンのカバー
3. ライトを照らせ – Shine a Light
4. ソウル・サヴァイヴァー – Soul Survivor

本作からのシングルカットは「ダイスをころがせ/黒いエンジェル」と、米国のみの「ハッピー/オール・ダウン・ザ・ライン」の2種で、前者は全英5位、全米7位、後者は全米14位のヒットとなった。

スワンプ・ロック風の「ダイスをころがせ」はその後ライヴの定番となる人気曲となったし、「ハッピー」はキースがリードヴォーカルを取った曲の中で最もよく知られるものとなった。

1枚目のレコードに針を落とすと、キースのゴツゴツとした荒っぽいギターのイントロが鳴り、ミックのいま起きたみたいな「イェ~」というダルそうな合図で始まる「ロックス・オフ」を聴いただけで、もういつでもこのアルバムのクールな世界に入っていける。

ストーンズの楽曲の中で最も速く、それゆえミックが歌うのを嫌がっていたという「リップ・ジス・ジョイント」はパンク・ロックみたいだし、カントリー風の「スウィート・ヴァージニア」は実のところ、わたしがこのアルバムで一番好きな曲だ。同じくカントリーの香りが漂う「トーン・アンド・フレイド」もいい。

ブリティッシュ・ロックらしい美メロを用いながらも、アメリカ南部の匂いがじんわりと香る、ストーンズ流スワンプ・ロックの傑作は「ラヴィング・カップ」だ。

キースの5弦ギターがテンション高く鳴り渡るカッコいいイントロから始まる「オール・ダウン・ザ・ライン」はまさにならず者たちにピッタリのホンキートンク・ロックンロールであり、2008年公開のストーンズの映画のタイトルにもなった「ライトを照らせ」も胸熱の名曲だ。

2枚組のアルバムは売れないという周囲の心配を覆し、本作も前作に続いて全米1位、全英1位の大ヒットとなり、日本でもオリコン7位まで上昇した。

2010年にはデラックス・エディション盤が発売され、10曲の未発表曲&アウトテイクが収録された。

そもそもなんでもありの印象のアルバムなので、LPレコードの溝にもう少し余裕があれば入れちゃっても全然よかったような未発表曲もあり、中でも「フォローイング・ザ・リヴァー」はストーンズらしからぬ壮大さで印象深い楽曲だ。

(Goro)

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