名盤100選 66 ジミ・ヘンドリックス『ライヴ・アット・ウッドストック』(1969)


つい話の流れで「次回はジミ・ヘンドリックス」などと予告してしまったものの、実はジミヘンの正規録音にはあまり良いものがないと思う。

初期のヒット曲はなんだか音が悪すぎて、本来の実力の100分の1にも感じられない。音楽が斬新過ぎて、まともなミックスすら出来ていない感じなのだ。

オリジナル・アルバムでは3枚目の『エレクトリック・レディランド』がサイケデリックで個性的なアルバムではあるけれども、わたしにはなんだか「ジミ・ヘンドリックスのまた別の才能」という気がする。
ジミヘンの生み出す「音響」の最大の魅力は、サイケデリックなんてそんなお洒落で陳腐なものではないという気がするのだ。もっと原始的で獰猛な咆哮、野生の饐えた匂いがするものをわたしは期待してしまう。

その代表的な演奏がこのライヴに収録されている「アメリカ国歌~星条旗よ永遠なれ」である。
この演奏はとにかく凄い。

そのヘンドリクスが生み出したのは、世にもおぞましい、グロテスクな音響である。
「アメリカ国歌~星条旗よ永遠なれ」は、まるで善人ぶった「アメリカ」の生々しい正体である怪物が、悲鳴をあげ、咆哮をあげて、憎悪に燃えながら、そして恐怖に怯えながら、苦悶にのたうちまわる姿のようだった。まさにそれがアメリカという国のリアリティに思える。

この演奏もまたロック史上に燦然と輝くロックンロールマジックの瞬間に違いない。
わたしは16歳のときにこれを聴いてから、不快であるとか、悪であるとか、おぞましさであるとか、憎悪であるとか、恐怖であるとか、そのようなネガティヴな方向のリアリティまで追求しようとしているのがロックという音楽なんだな、と思って興味深く聴き続けてきた。
ロックミュージックはハッピーでキャッチーでノリノリでオーイエーだけではないのである。
だから面白い。

ジミ・ヘンドリックスは1942年にシアトルで生まれ陸軍・空軍の経験後、24歳でイギリスに渡りレコード・デビューする。
渡英したばかりのジミヘンのギターは同業者にも衝撃を与え、彼が演奏するクラブには長蛇の列ができ、連日ビートルズやローリング・ストーンズのメンバーが顔を見せ、エリック・クラプトンやジェフ・ベックは「廃業を考えた」というほどであったらしい。

彼はその演奏技術と圧倒的なパフォーマンスでアメリカに戻っても成功し、彼が出演すれば客が押し寄せ、レコードはどれも売れまくったが、デビューから4年、27歳でロンドンのホテルで死ぬ。酒と睡眠薬を飲んで眠り、中毒症状を起こして吐瀉物を喉につまらせて窒息死したということであるが、その真相はよくわからないらしい。

彼が遺言を残さずに死んだため、版権などに混乱が生じ、現在でもいろいろなレコード会社から様々な音源が発売されている。
その中にはあまりコンディションの良くない演奏も多く存在する。むしろそっちのほうが多いぐらいだ。
わたしはそんなにいろいろ聴き漁っているわけではないが、このウッドストックのライヴはコンディションが良いほうではないかと思う。
歴史上最も偉大なロック・ギタリストによる、奇蹟の記録である。