名盤100選 29 ザ・ジャム『コンパクト・スナップ!』(1990)

最初わたしはジャムをパンク・バンドだと認識していた。
ピストルズ、クラッシュ、そしてジャム、というのがわたしの3大ロンドン・パンクだと思っていて、いやジャムはモッズだよと言われても逆にピンと来なかった。
まあどっちでもいいと思う。ジャムはジャムだ。

パンク・ロックと一口に言ってもいろいろあって、人それぞれでまた好きなタイプも違う。
わたしにとってのパンク・ロックの定義は、まず歌メロが覚えやすく一緒に歌えること、余計なことやややこしいことでごまかさず、勢いがあってシンプルなサウンドであること、ギターをちまちま弾かずコードを思いっきり鳴らすこと、そしてユーモアのセンスが感じられること、そのぐらいである。

この定義に合致していればわたしにとってはパンク・バンドであり、セックス・ピストルズ、ラモーンズ、ダムド、クラッシュなどはもちろん、ニルヴァーナやグリーン・デイ、ハイロウズも立派なパンク・バンドであるし、ジャムだってそうなのだ。

ちなみにわたしはハードコア・パンクと呼ばれる音楽は全然好きではない。あれはある意味パンクのプログレみたいなもので、創造ではなく解体や解剖を目指しているためオリジナリティが感じられず、また考えすぎのためユーモアのセンスも感じられない。

ラモーンズのようにデビューから解散まで不変のパンクロック・バンドではなく、ジャムはアルバムを出すたびに音楽性の幅を広げていった。
1977年のファーストと1982年のラスト・アルバムは、たった5年しか経っていないにもかかわらず、同じバンドとは思えないほど音楽性が違う。
ファーストはそれこそパンク・ロックだが、ラストの『ギフト』はR&B/ファンク系の音楽である。

ただしジャムが最後まで不変だったのはその優れたポップ・センスで、それはシングル盤で最も凝縮された形で彼らの真髄が発揮されたと思う。
彼らのシングルは素晴らしく完成度が高く、オリジナリティがあり、こういう仕事は中途半端な才能と自己満足のことしか考えていないアーティストには決して真似出来ない、本物のプロフェッショナルなアーティストの仕事である。
だからわたしはジャムはオリジナル・アルバムよりもシングル集やベスト盤を好むのである。

わたしはこのブログでもよくベスト盤を選出するが、わたしにとってはオリジナル・アルバムも編集盤も同じ「音盤」ということに差はなく、同列で比較して選んでいるだけである。
逆に、ベスト盤が良いのはあたりまえなどとはまったく思っていない。
ここでこのアルバムを選んだのも、ジャムの数あるCDの中から、わたしが最も良いと思う内容の音盤を選んだらそれがたまたま編集盤だったということにすぎない。

この『コンパクト・スナップ!』は発売当時からよく聴いた。
デビュー曲の「イン・ザ・シティ」からラスト・シングルの「ビート・サレンダー」まで、年代順に曲が並んでいるという、ベスト盤としては理想の構成になっているので、ジャムの不変のポップ・センスと、変化していった音楽性が共に楽しめる。

ジャムは3人なのがいい。
ロック・バンドは3人がいちばん絵になる。