名盤100選 55 ジャニス・ジョプリン『グレイテスト・ヒッツ』

個性的な女性ヴォーカルと言ったらやはりこの人を超える人はいないだろう。
唯一無比の、度肝を抜かれるような激しさと、すすり泣くような哀しみとが同居したその圧倒的な表現力とパワー、その後ジャニス・ジョプリンに似た人はひとりも出てこなかったし、一代限りのスタイルだった。
死後39年、でも現在でも洋楽ロックに興味を覚えた若者がいつかジャニスにたどり着いたときに受けるそのインパクトは、われわれの頃となんら変わっていないだろうと思う。

ジャニス・ジョプリンはビッグ・ブラザー・アンド・ホールディング・カンパニーというバンドのボーカリストとして1967年にレコード・デビューして、2枚のアルバムを発表した。
その後ソロになって2枚のアルバムを発表する。
それが『コズミック・ブルース』と『パール』で、この2枚のほうがわたしは好きだ。

『パール』はロック史上の名盤として評価される場合が多い。
もちろんジャニスの歌唱は素晴らしいし、「ムーヴ・オーヴァー」や「ミー・アンド・ボビー・マギー」のような名曲が収録されているものの、退屈に感じる曲も多い。
ジャケットは素晴らしく、たしかに名盤と言いたくなる風格はあるのだが。
なのでわたしはこのベスト盤を選んだ。
たった3年という短い活動期間だったけど、こうしてジャニスの最良の歌をまとめて聴くとやはり圧倒的に素晴らしい。

ジャニスは評価され、有名になってからも酒とドラッグに溺れる生活だった。そして27歳のときにヘロインを過剰摂取して死ぬ。
彼女は、自分の価値がわかっていなかったのだろうか。
人の悩みのことはわからないが、その存在の大きさ、可能性の大きさに比べて、あまりに小さなことを求めて破滅した気がわたしにはしてしまうのだ。
その才能の素晴らしさ、存在の偉大さを彼女自身が自覚して、もっと欲深く、もっともっと多くのものを求めたら良かったのに、と思う。それが残念でならない。