躍動感あふれる激シブ1st 〜ザ・ローリング・ストーンズ『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)【最強ロック名盤500】#79

⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#79
The Rolling Stones
“The Rolling Stones” (1964)

EMIより先にビートルズをオーディションしていながら、不合格にしたことはデッカレコード担当者の史上最悪の失態となったが、彼らが汚名返上のために血眼になって探し当てた新人がこのザ・ローリング・ストーンズだった。

ザ・ローリング・ストーンズの1stアルバムは、1964年4月にイギリスで発売された。デビュー・シングル「カム・オン」のリリースから、すでに10ヶ月が経っていた。

1ヶ月後にはアメリカでも発売されるが、アメリカでのデビュー・シングルとなった「ノット・フェイド・アウェイ」がアルバム冒頭に追加され、替わりに「モナ」が削られた。ジャケットも米国版は『England’s Newest Hit Makers』というタイトルがデカデカと加えられた。

今回選んだのは英国盤1stの方で、アルバムの収録曲は以下の通り。
全12曲中オリジナルは3曲のみだ。カッコ内はカバー元のアーティストである。作者ではない。複数のアーティストが録音している曲は、ストーンズがカバーしたと思われるアーティストを記している。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1. Rout 66 (チャック・ベリー)
2. I Just Want to Make Love to You (マディ・ウォーターズ)
3. Honest I Do (ジミー・リード)
4. Mona (ボ・ディドリー)
5. Now I’ve Got a Witness
6. Little by Little

SIDE B

1. I’m a King Bee (スリム・ハーポ)
2. Carol (チャック・ベリー)
3. Tell Me
4. Can I Get a Witness (マーヴィン・ゲイ)
5. You Can Make It If You Try (ジーン・アリスン)
6. Walking The Dog (ルーファス・トーマス)

ローリング・ストーンズの音楽の源泉となった、ブルース、R&B、そしてロックンロールのカバーがズラリと並ぶ。ストーンズはアメリカの黒人音楽を愛し、イギリスに広めようとしたのだ。まさにストーンズの原点であり、そしてブリティッシュ・ロックの原点でもある。

若きストーンズのサウンドは、米国の地で熟成されたブルースを、若々しい疾走感と英国らしいポップな解釈で新鮮に表現した、激シブでありながら躍動感あふれるキレのいいカッコ良さは他のブリティッシュ・ビート勢とは一味違う。

アメリカのレコードなど船乗りたちが港町に持ち込むぐらいしか流通がなかった当時のイギリスでは、本物のブルースに触れる機会は少なかった。その生々しく、荒っぽく、パワフルかつ誠実な黒人音楽を、イギリスの白人の若者たちが新鮮な解釈で再現してみせたことにさぞや衝撃を受けたことだろう。全英アルバム・チャートでビートルズの2ndアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』を蹴落とし、12週連続1位という大ヒットとなった。

オリジナル曲は3曲のみだが、そのうちA5「ナウ・アイヴ・ゴット・ア・ウィットネス」はインストで、ブライアンのハーモニカとキースのギターが楽しめる。これとA6「リトル・バイ・リトル」の作者は”Nanker Phelge”名義になっていて、これはストーンズのメンバー全員で作った曲という意味なのだけれども、「テル・ミー」だけは作者のクレジットが、”Jagger/Richards”となっている。ミックとキースが初めて二人で書いた曲というわけだが、ブルース風でもロックンロール風でもない、正直ストーンズらしいとは言えない作風だ。売れる曲を書かねばということで、ビートルズあたりを意識したのだろうか。キースによれば、この頃はなかなか思うように曲が書けず、書いた曲をバンドに聴かせるのが恥ずかしいほどだったという。

しかし幸いこの曲はファンに受け入れられ、初期の人気曲のひとつとなったが、しかし若きジャガー&リチャーズには申し訳ないけれども、まだこの時点ではオリジナルよりカバー曲の方が良いと思う。

特にわたしが好きなのは、シビれる疾走感のA1「Route 66」、B2「Carol」、猥雑で荒々しいA2「I Just Want to Make Love to You」、B6「Walking The Dog」、野生的で力強いA4「Mona」、洗練されたカントリー・ブルース「Honest I Do」などだ。

タイトルもバンド名も何も書かれていない、当時としては斬新だったレコード・ジャケットもめちゃカッコいい。ストーンズのアルバム・ジャケットの中で、わたしはこれがいちばん好きだ。

このジャケットが象徴するように、ビートルズのようなわかりやすいエンターテインメント的要素は少なく、言わばアメリカの黒人音楽への愛に溢れたオタク的なアルバムでもある。

この時点で、数年後にはこのバンドが、ロック界を代表する世界的なモンスター・バンドになるとは誰も想像しなかったに違いない。ましてや60年も続くなんて。


↓ アルバム冒頭を飾る、ストーンズらしい疾走感の「ルート66」。

↓ アメリカでシングルカットされ、全米24位とストーンズにとって初めてのヒットとなった「テル・ミー」。日本でもシングル発売され、これによってストーンズの名前が日本でも認知されようになった。

(Goro)