パンク・ロックのシンボルと言ったらやっぱりセックス・ピストルズだけれど、ピストルズ以上に幅広く聴かれ、支持されるパンク・ロック・バンドはこのザ・クラッシュだけだろう。
ザ・クラッシュは、1977年に名盤『白い暴動』でデビューし、その後はパンクにとどまらず、スカやレゲエ、ダブ、カリプソ、ヒップホップ、ニューウェイヴなど様々な要素を取り入れて音楽性を拡げ、パンクの枠を超えて、幅広いロックファンに支持された。
たぶん、パンク・ロックを好まない人はセックス・ピストルズを決して聴かないだろうけど、このクラッシュは、ロック好きならたいていの人は聴く。
どんなロックが好みかによって好きなアルバムが分かれるだろうけど、どれかはきっとハマるにちがいない。様々な音楽スタイルに挑戦し、最後にはザ・クラッシュとしか言いようのない独自のスタイルを創り上げた。
その意味でも、70年代のパンク・ロック・バンドで最も成功したバンドと言えるだろう。
ここでは、そんなザ・クラッシユをはじめて聴く方にとって入門用に最適な名曲を10曲選んでみた。
今回は昔のLPレコードみたいな、たった10曲しか入っていないほんとのベスト盤を作るつもりで、A面・B面で並べてみた。
なんでそんなことをするかというと、楽しいからです。
White Riot
入門者用なら「ロンドン・コーリング」を1曲目に持って来るほうが間違いないのはわかっているけれど、まずはパンクロックから聴いてもらおう。
この曲はクラッシュのデビュー・シングルであり、1stアルバム『白い暴動』に収録されている。
若くて元気のいいパンクスのみなさんは、クラッシュならまず最初にこのアルバムを聴こう。
『白い暴動』を飛ばしていきなり『ロンドン・コーリング』から聴くとしたら、おじさんならまあいいが、若者ならあまりにももったいない。
『白い暴動』のごつごつとした粗挽きサウンドとピュアで豊潤なメロディは、ザ・クラッシュの原点として永久に瑞々しい輝きを失うことはないだろう。
このアルバムは、セックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』に唯一肩を並べる、UKパンクの最高傑作である。
London Calling
ザ・クラッシュの最高傑作である3rdアルバム『ロンドン・コーリング』のタイトル曲で、たぶんクラッシュでは1番有名な曲だ。
全英チャートでは11位どまりだが、意外にもこれが彼らのチャート最高位である。
それにしてもあの1stアルバムの、荒っぽいパンク・ロックをやっていた連中がこんなにオリジナリティ溢れる斬新な曲を書くようになり、バラエティに富んだ素晴らしく完成度の高いアルバムを作ることになるとはだれも思わなかったに違いない。
いったいなにがどうなってクラッシュがこんなことになったのかわからないが、とにかく、こんな凄いアルバムは滅多にない。
米Rolling Stone誌の〈1980年代最高のアルバム〉の1位に選出されたが、それを伝え聞いたメンバーが、「ありゃ79年の12月発売だわさ」と困惑していた記事が忘れられない。
Spanish Bombs
続けて『ロンドン・コーリング』収録曲。
スペイン戦争(原題は”スペインの爆弾”)なんかを題材にしているわりにはものすごくポップで明るい曲だ。
ジョー・ストラマーがメイン・ヴォーカルのはずなのに、ミック・ジョーンズの少年のような高い声のコーラスのほうが印象が強い。
ずっと同じパターンの繰り返しなのになぜか飽きないし、いろいろ破天荒で魅力的な曲だと思った。
当時の他のパンク・バンドと比べても別格的にクラッシュが面白いのは、こういうポップセンスもあるからだ。
わたしはこの曲を、初めて聴いたときからずっと好きだ。
Death or Glory
これも『ロンドン・コーリング』収録曲。
サビがカッコ良くて印象的なので、アルバムを聴いて最初に好きになった曲だった。
アレンジもカッコいい。
「Death or Glory」という言葉は大昔のイギリスの騎兵隊の記章に使われていた言葉で、死を恐れず戦う、という勇敢さを表したものだそうだ。
Rudie Can’t Fail
これもまたまた『ロンドン・コーリング』の収録曲で、映画『ルード・ボーイ』のエンディング曲でもある。
「ルーディ」とは、スラングで不良少年のことをさす「ルード・ボーイ」を縮めたものだ。
映画は、ポルノショップの店員をしているひとりの”ルード・ボーイ”がその最低な生活から抜け出してザ・クラッシュのローディになろうとする物語だ。
クラッシュのメンバーが本人役で出ていて、彼らのライヴ映像やレコーディングの様子などもたっぷり盛り込まれ、どちらかというとそれがメインみたいなものだ。
主人公の若者の、最低な生活から脱け出したい焦燥感、そしてやがて知ることになる挫折感や徒労感。
主人公とそんなに変わらない状況にいた自分のことのように思えて、胸に刺さった映画だった。
エンディングのこの曲には、あのクラッシュがやさしい言葉で応援しているように思えて、熱いものが込み上げてきたものだ。
I Fought the Law
この曲は、ザ・クリケッツがオリジナルである。
クリケッツは元々バディ・ホリーのバンドだが、彼が事故死した後もソニー・カーティスというヴォーカリストを入れて活動が続けられた。
この曲はそのソニーが書いて、1959年に発表したものだ。
クラッシュの最大の武器である、ジョーの男臭いヴォーカルとミックの少年のように透き通ったコーラスのコントラストがサイコーな、シンプルでパワフルでテンションの上がる名曲だ。
日本でもCMに使われていたので、聴いたことのある人も多いだろう。
Police on My Back
1980年の4作目『サンディニスタ』収録。
『サンディニスタ』はLPでは3枚組で発売された大作である。
レゲエ、ジャズ、ゴスペル、ロカビリー、フォーク、ダブ、R&B、カリプソ、そしてロックに、テープ逆回転みたいな遊び心もありの、とっ散らかっていて、完成度は低いけど、滅法楽しいアルバムである。
名曲が山盛り、というタイプのアルバムではないけど、意外といちばん飽きが来ない作品かもしれない。
その中で、最もキャッチーでカッコいいロックンロールがこの曲だ。
この曲はカバーで、原曲はイギリスのバンド、The Equalsが1968年に発表した曲だ。
おまわりさんに追いかけられて、月曜も火曜も水曜も木曜も金曜も土曜も日曜もずっと逃げ続けるという歌である。
動画はライブ映像で、日本語字幕が出ているので日本のテレビで放送されたものなのだろう。
Should I Stay or Should I Go?
クラッシュ5枚目のアルバム『コンバット・ロック』収録曲。
このアルバムがザ・クラッシュの実質的なラスト・アルバムだ。
ギターのミック・ジョーンズが書いて、リード・ヴォーカルも彼がとった曲はいくつかあるが、この曲はその彼の代表曲だろう。
解散後の1991年にリーバイスのCMに使用され、9年ぶりに再びシングルカットされると、クラッシュとしては初となる、全英チャート1位に輝いた。
Stay Free
2ndアルバム『動乱(獣を野に放て)』収録曲。
学生時代の悪友との悪行三昧の日々を振り返り、今はそれぞれが違う道を歩んでいる。
思うところはいろいろとあるけれど、おたがい自由に生きようじゃないか、今度会ったら一杯おごってくれ、とそんな歌だ。
クラッシュにはめずらしい、泣かせる曲である。
動画は、前述のクラッシュの半ドキュメンタリー映画『ルード・ボーイ』の中の、この曲のレコーディング・シーンである。
Straight to Hell
『コンバット・ロック』収録曲。
クラッシュには”泣きのバラード”みたいな曲は1曲も無いけれど、それに近いものがあるとしたら、この曲ではないか。
これは、クラッシュの中でも最も美しい時間が過ぎていく曲のひとつだ。
レゲエやカリプソあたりから派生したような新鮮なリズムに、砂漠のカラカラに乾いた熱風のような、ふわふわと空中をたゆたうようなギターの音色が美しい。
ベトナム戦争後の悲劇や、アメリカを薬漬け王国と罵倒する激烈な歌詞だけれど、わたしにはまるで、罪深い故に滅びゆく、すべての文明人に語りかけるような、時空を超越して、永遠に漂い続ける音楽のように美しく響く。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
もしもクラッシュに興味が湧いたら、あえてベスト盤ではなくてオリジナル・アルバム、『白い暴動』『ロンドン・コーリング』あたりから聴いてみてください。
絶対に損はしないですから。