名盤100選 42 ザ・ドアーズ『ハートに火をつけて』(1967)

アメリカの郊外の大型スーパーなんかに行くと「ハートに火をつけて」がインストゥルメンタルで店内に流れているのは普通の光景なのだそうだ。
中高年のアメリカ人にとってはドアーズは懐メロであり、日本で言えばたとえば「襟裳岬」なんかが流れているような感じなのかもしれない。
わたしはドアーズは夜しか聴けない。スーパーの店内で流れているなんて想像もつかない。
わたしにとってドアーズはアンダーグラウンドであり、突然変異の怪物であり、背徳的な畸形であり、悪の化身であり、躁鬱的であり、グロであり、エロであるのだ。

ベースがいないのがまず畸形的であり、かたわのドアーズはキーボードを異常に発達させることによってその姿を怪物のように進化させた。
そしてボーカルのジム・モリソンという男は、性的な肉体と詩的な思索だけで出来ている、まるで古代の人類のようである。
その声は獣のようでもあり、ひときわ進化した知性で雌を支配する王のようでもある。そして彼は、今に至るロックスターの原型となる。
彼らの生んだポップソングは、前世紀のサーカスの見世物小屋のように華やかかつ不気味であり、忘れがたい記憶を残す。

『ハートに火をつけて』はドアーズのファースト・アルバムである。
この不気味なアルバムはしかし完成度が高い。チャートの2位まで上がり、ものすごく売れた。
よくこんなものが売れたものだと思う。1967年という時代ならではのことだろう。アメリカ人の大半がラリっていた時代だからだ。

ドアーズのアルバムではこのファーストがダントツで良いと思う。曲調がバラエティに富み、キャッチーで聴きやすい。
わたしは『ソフト・パレード』はあまり聴かなかったが、それ以外のアルバムはだいたい同じように楽しめる。
中でも『まぼろしの世界』と『モリソン・ホテル』をよく聴いたかもしれない。

ジム・モリソンは1971年にパリで、ヘロインの過剰摂取により死亡した。享年27歳。ドアーズは5年間に7枚のアルバムを残した。
ロックスターというのは27歳でよく死ぬものらしい。ほかに、ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、カート・コバーンも27歳で死んだ。
すべてクスリ絡みという死にかたである。