名盤100選 98 エアロスミス『パーマネント・バケーション』(1987)

エアロスミスから1枚というと、アルバムを全部聴いているような熱心なファンならどんなチョイスをするのだろう? やはりエアロスミスの原点ともいえる70年代のアルバムだろうか?

わたしはポップ好きのせいか、70年代のゴリゴリな感じのハードロックアルバムは正直苦手だ(好きな曲はあるけど)。そして残念ながら90年代以降のアルバムをわたしはあまり聴いていない。
なのでわたしのチョイスとしてはこのアルバムか、1989年の『パンプ』かどちらにしようか迷って、あらためて聴きかえしてみたけどやっぱり甲乙つけがたく、なんとなく「奇跡」というオーラが出まくっている感のあるこちらを選んだ。

それにしてもよく出来たアルバムだ。
ボン・ジョヴィのプロデュースで大当たりした、ブルース・フェアバーンの手になるサウンド・プロデュースが素晴らしい。

もともとキャッチーな曲が書けるエアロスミスというロックバンドにふさわしい、聴きやすいが刺激的なこのサウンドは、かつてなかったようなエンタテインメント性を前面におしだし、まるで撥水性ワックスでていねいに磨き上げられた高級車のように、ツヤツヤと輝くような響きだ。

わたしはパンクとかフォークとかあらびき団とか、どちらかというと「粗い」ものがもともと好みなのだけど、しかしこのようなよく出来たサウンドも嫌いではない。大音量で聴くとまた立体的なサウンドが楽しく、意外にうるさく感じない
曲も、1曲目の「ハーツ・ダン・タイム」から最後のインスト「ザ・ムーヴィー」までバラエティに富んでいてどれも素晴らしい出来だ。サウンド・プロデュースの斬新さと楽曲のクオリティが両方ズバぬけているという、これだけでもほとんど奇跡のような名盤と言える。

でも、「奇跡」と呼びたい理由はまだある。

70年代に一度黄金期を築いたエアロスミスは80年代に入ると、70年代ハード・ロックバンドの典型的な破滅のパターンそのままに、ドラッグにどっぷり浸かってメンバーの分裂・脱退を繰り返し、発表するアルバムも精彩を欠き、迷走し、一度は完全にシーンから消えてしまったのだった。
メンバー全員が麻薬中毒で更生施設に入院するというどん底を経験し、そこから這い上がってきた執念でつくりあげたアルバムが、このアルバムである。

そしてエアロスミスはこのアルバムの成功によって奇跡の復活を果たし、以降はアメリカを代表するロックバンドとして君臨し続けることになる。
内容の素晴らしさと併せて、これほど「奇跡のアルバム」と呼ぶのにふさわしい作品はないだろう。