名盤100選 16 キンクス 『ヴィレッジ・グリーン・プリザベイション・ソサエティ』 (1968)

いちばんイギリスらしいロック・バンドと言ったら、わたしにとってはキンクスのことだ。
ナイーブで偏屈、実験性に富むが叙情的、そしてノスタルジック。

ブリティッシュ・ビート・バンドとして颯爽と登場し、「ユー・リアリー・ガット・ミー」で若者たちの度肝を抜き熱狂させたのに、その後はあまりにもわが道を行き過ぎてしまった。
その音楽はあまりに趣味的で、商売を忘れた嗜好品のような音楽だった。
聴く人は深いが狭い。
なにしろストーンズが悪魔を憐れんだり、ザ・フーがピンボールの魔術師になっていたころに、キンクスはと言えばイギリスの田園風景の美しさについて歌っていたのである。
レイ・デイヴィス、当時24歳の若者がである。
素晴らしい、というしかない。

キンクスは68年頃から、とり憑かれた様にコンセプト・アルバムを量産し始める。
68年の『ヴィレッジ・グリーン・プリザベイション・ソサエティ』、69年の『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』、70年の『ローラ対パワーマン、マネーゴーランド組第1回戦』、71年の『マスウェル・ヒルビリーズ』このあたりがキンクスの絶頂期と言える。
その後は名前だけ有名だがあまり売れないバンドとして1996年まで細々と存続し、解散というよりは知らないうちにロック・ミュージックの華やかな世界からフェイド・アウトしてしまった感があるキンクス。

キンクスは泣けるのである。
ビートルズより早くコンセプト・アルバムを創ったのに、レコード会社の理解がなく発売は『サージェント・ペパーズ』より後になってしまった不運に泣ける。
ストーンズが日本でドーム・ツアーをやってるのに、キンクスはクラブ・クアトロで200人の聴衆相手にライヴをやってるのが泣ける。
96年の最後のアルバムがインディーズから発売されたことに泣ける。
そしてレイ・デイヴィスのその天才的な作曲能力と、キンクスの遺した今も輝きを失わない膨大な作品がいまだに正当に評価されないことに泣けるのである。

文字通り泣ける曲もキンクスは得意にしていた。
「サニー・アフタヌーン」「ウォルタールー・サンセット」「スクール・デイズ」「セルロイド・ヒーロー」などは世にも美しい名曲である。
わたしは女々しい性格なのでどうしてもそういう曲に食いつきやすい。

今回あらためて『ヴィレッジ・グリーン・プリザベイション・ソサエティ』『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』を聴きなおしてみたが、どちらもビートルズの『サージェント・ペパーズ』と同等だと思った。
嘘だと思うなら聴いてみるといい。
本当にわたしは、この稀有なバンドがなぜビートルズと同等に評価されないのか、聴かれないのか、その理由がまったくわからない。

ここではいちおう『ヴィレッジ・グリーン』のほうを選んだが、わたしは『アーサー』も同じぐらい素晴らしいアルバムだと思うし、どちらでも良かった。
最終的にはジャケにメンバーの写真がのってるというしょうもない理由で、こちらを選んだ。