名盤100選 51 ピンク・フロイド『狂気』(1973)

これで51枚目か。ついにこのブログも折り返し地点を回ったようだ。
ここまでで1年半。100枚すべて選び終わるまでやはりあと1年半というところだろうか。なんだか知らないが3年がかりの大プロジェクトになってしまったようだ。

わたしがピンク・フロイドを好きになったのは30代前半の頃と、わりに遅い。
20代の頃、あれだけ新旧のロックを聴きまくったのに、なぜかピンク・フロイドは避けてきたのだった。
いや「なぜか」なんてしらばっくれることもない。理由はわかっている。

セックス・ピストルズのジョニー・ロットンが「I hate Pink Floyd」と書かれたTシャツを着てステージに現れたことが話題になったように、当時のロンドン・パンクは、複雑化・肥大化して大仰で難解な代物と化したブリティッシュロックを否定するところから始まっていた。ピンク・フロイドは商業的にも大成功したその象徴たるバンドだったのだ。

わたしはパンク側の戦士なので、そんな敵陣の音楽など聴いてなるものかと思っていたのだ。

若い頃はすぐそういうのに洗脳される。
若い頃は世の中のリアルな知識がないので、ちょっとカッコいい人の意見をさも自分の意見のようにしてしまう。
わたしも若い頃は音楽や小説なんかに洗脳されて反戦・平和の反体制主義に洗脳されていたものだ。
よく考えてみれば国は戦争もしてないし平和であるので、全然反体制なんかではなくてむしろ保守主義なのだけど、まあ若い頃なんてヒヨコなのでそんなことすらわからないのである。
まあだいたいにおいて反体制などと言いだす人はものすごく欲求不満の人だ。わたしもそうだったのでよくわかる。
わたしは30も過ぎると比較的欲求不満でもなくなってきたのでピンク・フロイドも聴くようになったのである。

わたしはピンク・フロイドのほとんどのアルバムを聴いたが、とくに気に入ってよく聴いたのはこの『狂気』と75年の『炎~あなたがここにいてほしい』、77年の『アニマルズ』、70年の『原子心母』である。
ファーストも悪くはないけど、サイケデリックなのでわたしにはやや面白みに欠ける。
『狂気』の次によく売れた『ザ・ウォール』はわたしはあまり好まず、あまり聴いていない。『おせっかい』もあまり聴かなかったな。

わたしはそもそも耳で聴く音楽に難解もクソもないと思っているので、なんだかよくわからなくて面白くないとしたらそれは作り手が失敗しているだけなのである。
わたしはクラシックにおける《現代音楽》というジャンルを好んで聴くうちにそれがわかった。
現代音楽やプログレなどはたとえ失敗作でも誰も気づかないのか「こんなもんかな」と思われるのか、相当ひどいものが堂々と世に流通してしまう。
ただ、この厳しい経済第一の世の中をくぐりぬけた驚くべき失敗作が収録されたCDを発見したりすると逆にちょっと嬉しくなる。
この判断ミスに人のぬくもりを感じて、まだまだ世の中すてたもんじゃないな、などと思ってしまうのだ。

『狂気』は陰鬱ではあるが、ピンク・フロイドのアルバムとしては最も聴きやすいアルバムだと思う。
メロディがくっきりしているし、お約束のギター・ソロなどもちゃんとある。
「マネー」のギターソロなども、わたしの最も好きなもののひとつである。