ピンク・フロイド/原子心母(1970)

Atom Heart Mother  (Remastered Discovery Edition)

【70年代ロックの快楽】
Pink Floyd – Atom Heart Mother

わたしが初めて買ったピンク・フロイドのアルバムが『原子心母(Atom Heart Mother)』だった。

まあ、現代の若いロック・ファンが見れば、単なるダサい牛の画のジャケットに見えるかもしれないが、われわれの若い頃はこの牛ジャケットを所有するということは、ロック・ファンとしての大人の階段を昇る、ちょっとしたステイタスみたいなものだったのだ。

これはそのタイトル曲で、23分もある超大作だ。23分というのは当時のアナログ・レコードの片面に収録できる限界の長さである。

デヴィッド・ギルモアが思いついたインスト曲を、クラシックの現代音楽(ヘンな言い方だな)の作曲家ロン・ギーシンに編曲を頼んで完成した曲で、安い現代音楽っぽいテイストのプログレッシヴ・ロックである。

きっと前衛的で難解な音楽なのだろうなと、期待半分怖さ半分で最初は構えて聴いたのものだったけれど、しかし思ったほどわけのわからないものでもなく、尖った感じもしない。
ジャケットに引っ張られてしまうが、虚ろな目をした乳牛や肉用牛の大行進のような音楽だと思った。圧巻だけど鈍重で、でも意外にメロディアスで、全体に愛嬌のある大作だった。

曲の長さといい、タイトルといい、ジャケといい、とにかくいろいろ印象強めの作品なので、ピンク・フロイドの代表作として語られることも多いのだけれど、初めてピンク・フロイドを聴くという人にはわたしはあまりお薦めしない。

やはりピンク・フロイドの本質はギター・ロックだと思うので、これは当時の若き野心と情熱が生んだスペシャル・コラボ企画みたいなものだとわたしは思うのだ。

「原子心母」を聴いてちっとも良いと思えなくても、「ピンク・フロイドは難解でよくわからない」なんて思う必要もない。
とりあえず最初はやはり『狂気』から聴いたほうがいいだろう。それでピンと来なかったらもう、ピンク・フロイドと一生関わらなくても構わないと思う。

アルバム『原子心母』は全英1位、全米55位となった。

アメリカではまだまだだった頃に、日本ではなぜかオリコン・チャート15位という、なかなかのヒットになった。

当時の日本のロック・ファンて、アグレッシヴだったんだなあ。

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