ボブ・ディラン『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』(1963)【最強ロック名盤500】#77

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【最強ロック名盤500】#77
Bob Dylan
“The Freewheelin’ Bob Dylan” (1963)

1963年5月、ディラン22歳のときにリリースされた、2ndアルバムだ。

わたしは16歳のときにこのLPレコードを買った。わたしにとって初めて聴くボブ・ディランのレコードだった。

「なんじゃこりゃ」と思ったものだった。

「あの有名なボブ・ディランの有名な名盤らしいけど、なんじゃこりゃ」と思ったものだった。

「”風に吹かれて”はたしかに良い曲だけれども、他はなんじゃこりゃ」と思ったものだった。

16歳のわたしは、1984年を生きていたのだ。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」やマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」、ブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」やプリンスの「パープル・レイン」などなど、電子楽器に彩られたきらびやかなポップスやロックの時代であった。地味なアコースティックギターと変なハーモニカと渋いしゃがれ声だけのしょっぱいレコードでは「なんじゃこりゃ」としか思わなくても仕方があるまい。

その後、バンドが入ったディランのアルバムを聴いて好きになっていくが、本作をようやく好きになったのは、ほんの3年ぐらい前のことである。ずいぶん時間がかかったものである。およそ40年近く。

あのとき16歳のわたしは「ボブ・ディランはきっと、曲はあんまり重要じゃなくて、歌詞が重要なんだ」と勝手に思い込んで、LPレコードを聴きながら一生懸命わけのわからない対訳を読み込んだものだった。

でも、今はそんな聴き方はしない。

歌詞はまあテキトーに想像でもして、意外にポップなメロディや、古い録音なのに意外に良い音で鳴っているギター、そしてなんといっても、後のロックスターたちにもひけをとらない超カッコいいヴォーカルと、その音世界だけで充分楽しめる。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1. 風に吹かれて
2. 北国の少女
3. 戦争の親玉
4. ダウン・ザ・ハイウェイ
5. ボブ・ディランのブルース
6. はげしい雨が降る

SIDE B

1. くよくよするなよ
2. ボブ・ディランの夢
3. オックスフォード・タウン
4. 第3次世界大戦を語るブルース
5. コリーナ、コリーナ
6. ワン・モア・チャンス
7. アイ・シャル・ビー・フリー

トラディショナルのB5を除いて、他はすべてディランのオリジナル曲だ。
1stアルバムは2曲しかオリジナル曲が無かったので、急に激しい創作意欲が湧き起こった印象だが、ちょうどこの時期が、黒人の公民権運動が激化したり、キューバ危機があったりで、社会情勢の急激な変化や、第3次世界大戦の危機を実感した時期で、政治意識高い系だったらしい恋人スーズ・ロトロの影響もあり、時事的な歌やプロテスト・ソングを書くようになったらしい。

アルバムは、彼を世界的に有名にした名曲「風に吹かれて」から始まる。

哲学的な問いや当時の社会不安に対して「その答えは風の中に舞っている」と答える、なんともクールでシビれるこの歌は、世界中の若者を興奮させた。

なんだか自分でも歌えそうと思わせる素朴な歌い方や、自分でも弾けそうなギター、自分でも吹けそうなハーモニカ、自分でも書けそうな曲(なわけないのだが)に、「これだ!」と奮い立った若者は多かっただろう。これまで隠していたが、実はわたしもそのひとりだった。

A6「はげしい雨が降る」も好きな曲だ。ちょっと長いけど。
B1「くよくよするなよ」はドリー・パートンによるカバーを聴いて、やっと曲の良さがわかった。これもほんの3年前のことである。

ディランの曲の良さを他のアーティストのカバーによって知るというのは、よくあることだ。特にザ・バーズは、その点において多大な貢献をしている。

A2「北国の少女」もジョニー・キャッシュとのデュエットであらためて好きになったし、A3「戦争の親玉」は岡林信康によるカバーでその歌詞の意味を理解することができた。

歴史的名盤として名高い本作も、当時の全米チャートでは22位どまりだった。
1stはチャート・インすらしなかったので、大躍進とは言えるが、まだまだ誰もがディランの音楽を理解できたわけではなかった。それぐらい新しい音楽だったということだ。

対照的にイギリスでは全英1位を獲得している。こちらは新しい音楽をわりと積極的に受け入れるイギリス人らしさが現れているなあ思う。

ジャケットでディランと腕を組んでいる美人が当時のディランの恋人、スーズ・ロトロで、こんなフライデーのスクープ写真みたいなのを堂々とレコードジャケットに使うのも当時はもちろん画期的だった。この印象的なジャケット写真がまたディランを、新しい価値観を持つ新しい世代を象徴するアーティストのイメージを高めることに貢献したに違いないし、フォークってモテるのかなと血迷った考えでギターを手にした若者も多かったと思われる。これまで隠していたが、実はわたしもそのひとりだった。

ちなみに、スーズ・ロトロとディランは、アルバムの発売から3ヶ月後には別れている。

↓ ディランを一躍世界的な有名人にした「風に吹かれて」。

↓ 初期の代表曲のひとつ「はげしい雨が降る」。

(Goro)