USA フォー・アフリカ/ウィー・アー・ザ・ワールド(1985)

We Are The World

【コラボの快楽】
USA for Africa – We Are The World

ポピュラー音楽史上、最もよく知られ、セールス的にも成功したコラボ曲ってなんだろうと考えていたら、この曲に思い至った。認知度も、セールスも、そのインパクトの大きさも、後にも先にもこれ以上のものはあるまい。

このプロジェクトは、前年にイギリスで大きな話題となったチャリティー企画〈バンド・エイド〉に触発されて(バナナ・ボートで有名な)ハリー・ベラフォンテが発案し、ライオネル・リッチー、クインシー・ジョーンズ、マイケル・ジャクソンなどが中心となって、当時深刻化していたアフリカの飢餓救済のためのチャリティー企画として立ち上げられたものだった。

イギリスの企画を真似たとはいえ、やはりアメリカ軍の顔触れの豪華さはイギリス軍とはケタ違いだった。ポップス界のレジェンドから、ソウル・R&Bのスーパースター、カントリー界の大御所、フォークの神様にロック界のボス、旬のポップ・アイコンまで、幅広いジャンルのアーティストが一堂に会した様はそれだけで圧巻だった。

当時の日本ではそもそも、洋楽アーティストの動いている映像を見ること自体がまだ貴重だったのだ。
今ならYouTubeでいくらでも見れるけれど、あの当時はまだネットどころかビデオすら無く、BSやCSも普及していない。地上波で洋楽アーティストが動いている映像を見られるなんて、週に一度、深夜の30分番組ぐらいしかなかったぐらい貴重なものだったのだ。

1985年当時、この顔触れの中で最も注目を集めていたのは、「スリラー」が大ヒットしたマイケル・ジャクソンや、旬のシンディ・ローパー、そしてブルース・スプリングスティーンだろう。わたしも彼が目的で見ていた。
アルバム『ボーン・イン・ザ・USA』が世界的なモンスター・ヒットを記録していた頃で、まさに当時のロック・シーンの台風の目のような存在だった。だからこの企画でも歌うパートがやけに多いのだろう。
わたしは、あのタモリがお昼の番組でこの「ウィー・アー・ザ・ワールド」の話題になったときに、スプリングスティーンの「ウィアーザウォォ~~」という歌い方をマネをして笑わせていたのを今でもよく憶えている。

今あらためてPVを見てみると、このスプリングスティーンの歌い方は正解だったのかどうか、よくわからない。ディランは正解だ。
シンディ・ローパーは今見ても可愛らしいし、ダイアナ・ロスの声の素晴らしさは、あらためて鳥肌モノだ。あ、ビリー・ジョエルもいたんだなあ。

このシングルは全米はもちろん、世界各国でチャート1位になり(日本では小泉今日子に負けて2位だった)1,000万枚近くを売り上げ、80年代で最も売れたレコードとなった。総額6500万ドル(当時のレートで約160億円)の寄付金が集まり、大成功を収めたという。

参加アーティストは以下の通り。

クインシー・ジョーンズ(指揮)

シンガー (歌唱順)

ライオネル・リッチー
 スティービー・ワンダー
 ポール・サイモン
 ケニーロジャース
 ジェームス・イングラム
 ティナ・ターナー
 ビリー・ジョエル
 マイケル・ジャクソン
 ダイアナ・ロス
 ディオンヌ・ワーウィック
 ウィリー・ネルソン
 アル・ジャロウ
 ブルース・スプリングスティーン
 ケニー・ロギンス
 スティーヴ・ペリー
 ダリル・ホール
 ヒューイ・ルイス
 シンディ・ローパー
 キム・カーンズ
 ボブ・ディラン
 レイ・チャールズ

コーラス (アルファベット順)

 ダン・エイクロイド
 ハリー・ベラフォンテ
 リンジー・バッキンガム
 マリオ・チポリーナ
 ジョニー・コーラ
 シーラ・E
 ボブ・ゲルドフ
 ビル・ギブソン
 クリス・ヘイズ
 ショーン・ホッパー
 ジャッキー・ジャクソン
 ラトーヤ・ジャクソン
 マーロン・ジャクソン
 ランディ・ジャクソン
 ティト・ジャクソン
 ウェイロン・ジェニングス
 ベット・ミドラー
 ジョン・オーツ
 ジェフリー・オズボーン
 ポインター・シスターズ
 スモーキー・ロビンソン

実はプリンスも参加予定だったのだが、当時の恋人だったシーラEにソロ・パートが与えられなかったことを不満に思い機嫌を損ね、当日何度も電話して説得したが結局来なかった、と伝えられている(シーラ談)。

下の動画は、小林克也がナレーションをしている制作現場のドキュメンタリーだ。
わたしがいちばん好きなシーンは、9分40秒ぐらいのところ、ボブ・ディランがソロ・パートを歌うよう求められ「キーが合わないからどう歌っていいかわからない」と言うと、スティーヴィー・ワンダーがディランよりディラン風に歌ってみせ、ディラン自身がそれを一生懸命真似して歌うというシーンだ。
この心温まる面白シーンが見られただけでも、このプロジェクトの価値はあったと思う。