ニルヴァーナ『MTVアンプラグド・イン・ニューヨーク』(1994)【最強ロック名盤500】#3

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【最強ロック名盤500】#3
Nirvana
“MTV Unplugged in New York” (1994)

1994年4月にカートの死でニルヴァーナが解散してから7ヶ月後、同年の11月にリリースされたライヴ・アルバム。93年11月にMTVのスペシャル企画として放映された「アンプラグド・ライヴ」を収録したものだ。

90年代前半は、MTVのアンプラグド・ライヴが大流行し、エリック・クラプトンやエアロスミス、ポール・マッカートニー、ブルース・スプリングスティーンなど数々の大物アーティストが出演して話題になった。
多くのライヴ・アルバムもリリースされたが、本作はその中でも間違いなく最高傑作に数えられる名盤だ。全米1位、日本でもオリコン総合20位のヒットとなった。

ニルヴァーナの3人、そしてライヴでサポート・ギタリストを務めているパット・スメアに加え、チェリストのロリ・ゴールドストンと、カートが敬愛するミート・パペッツのカークウッド兄弟がゲスト出演し、充実した内容の素晴らしいセッションになった。

オリジナル曲のアンプラグド用のアレンジも素晴らしい出来だが、ミート・パペッツやヴァセリンズ、デヴィッド・ボウイなどのカヴァーがまた秀逸だ。

これは単に、普段はラウドでノイジーなロックバンドが今日だけ趣向を変えてアコースティック・アレンジで演ってみました、たまにはこういうのもいいでしょう、というだけにはとどまらない作品だ。

カートの遺体が発見された自宅の地下室に、R.E.M.のアルバム『オートマチック・フォー・ザ・ピープル』が流れっぱなしになっていたことはよく知られているが、カートは常日頃から「R.E.M.のような曲を書きたい」と言っていたという。

93年といえば轟音系のオルタナティヴ・ロックもそろそろマンネリ化している頃でもあり、また別の可能性をこのライヴで試してみたい気持ちもあったのではないかともわたしは思う。

このライヴを聴いていると、全体の美しい統一感、連続する曲の展開の妙に、深く没入してしまう。その意味では、見事に世界観が完成しているコンセプト・アルバムのようにも聴こえるのだ。

もし、あのままカートが生き続けていたら、その性格からしても、また同じような攻撃的でラウドなアルバムを作ったとは思えない。ニルヴァーナの4枚目のスタジオ・アルバムは、本作の経験を活かしたような、繊細で美しい、内省的かつ優しさと希望も込められた傑作になったのではないかとわたしは勝手に想像する。

まあ、そんなことをいくら想像しても、ただただ虚しいだけではあるが。

(Goro)