ニルヴァーナ『イン・ユーテロ』(1993)【最強ロック名盤500】#2

IN UTERO

⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#2
Nirvana
“In Utero” (1993)

1993年9月にリリースされたニルヴァーナの3rdアルバム。

前作の『ネヴァーマインド』は、「ヘヴィで殺伐としたオルタナティヴ・ロックの表面をピカピカに磨いてヒットチャートに送り込めたら面白いじゃないか」というカート・コバーンの狙いが見事に当たった。しかし、当たりすぎた。

それはどうもシャレでは済まないぐらいの、ガチのスーパーヒット・アルバムになってしまい、彼らはロックのスーパースターとして世界的に知られ、ロックの救世主と讃えられた。事態は想定を遥かに超えた大ごととなってしまったのだ。

アンダーグラウンド・シーンのマニアックなリスナーたちにウケて、ライヴに客が入って盛り上がればそれでヨシぐらいに思っていたはずが、多国籍企業である大レコード会社の会計帳簿を大いに潤し、大社長が握手を求め、豪華なパーティーに招待しようとしてきたら、そりゃ戸惑うに違いない。そんなことを目指してバンドをやっきたわけじゃないんだけどなあ、と。

しかし賢い彼らは浮き足立つことなく、大レコード会社の新年度の会計帳簿と世界中のおっちょこちょいなリスナーたちが首を長くして待ち侘びていた、MTV向きのキャッチーなアンセムを満載した『ネヴァーマインド』の続編を作ることはしなかった。

プロデューサーにあえてアンダーグラウンド・ロック界の闇の帝王、スティーヴ・アルビニを起用して、ニルヴァーナ本来のアングラ臭と刺々しい”聴きにくさ”を強調した3rdアルバムは、前作よりも内省的でヘヴィな作品となった。

全世界が注目した本作は当然ながら全米1位、全英1位に輝いたが、しかしセールスは、3千万枚を売った前作の半分ほどにとどまった。
『ネヴァーマインド』で獲得したリスナーの半分を失った、というよりは、もともと『ネヴァーマインド』を購入した層の半分は、流行に乗って手を出してみたもののたいしてお気に召さなかった”バブルリスナー”だったということなのだろう。

アルビニの起用は、単にアングラ風の殺伐とした音にしたかったということだけではなく、彼がピクシーズの1st『サーファー・ローザ』のプロデューサーでもあるからだと思う。
カートが愛してやまず、ラウドとポップの融合というスタイルの先駆者であるピクシーズの1stという、トガった手本の原点に立ち返ろうとしたのだろうと想像する。

本作も、「ポップとラウドの融合」というニルヴァーナの基本的な音楽性には変わりなく、「ハート・シェイプト・ボックス」「オール・アポロジーズ」「レイプ・ミー」「サーヴ・ザ・サーヴァンツ」「ダム」「ペニーロイヤル・ティー」といった名曲・佳曲がズラリと並ぶ。

しかし『イン・ユーテロ』の評価は分かれるところだ。『ネヴァーマインド』の方が圧倒的に知名度は高いが、より暗鬱で殺伐とした本作のほうが好きだというファンも多い。

わたしは収録された楽曲の充実という意味で『ネヴァーマインド』の方が優れていると思うし、オルタナティヴ・ロックの枠を突き破ったあの斬新なサウンドのほうが好きだ。
『イン・ユーテロ』はアンダーグラウンドへの回帰、という目的は達成しているものの、あえて言えば後退しているようにわたしは感じていた。今聴いてもその印象は大きくは変わらない。

しかしながら凡百のロック・アルバムに比べたら、本作もまた名曲だらけの歴史的名盤には違いない。
ニルヴァーナの、類を見ない独自性と圧倒的な存在感は、それほどズバ抜けたものであるということなのだ。

(Goro)

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