プライマル・スクリームは1984年、クリエイション・レコードと契約し、12弦ギターの音色が特徴的で、ヴォーカルをヘロヘロにしたザ・バーズのようなシングル「オール・フォール・ダウン」でデビューする。
1stアルバムまではフォーク・ロック的なアプローチだったが、2ndでストゥージズのようなデトロイト系のガレージ・ロックに転身し、さらに3rdでは当時流行のダンスミュージック、ハウスをと導入し、その後もアメリカ南部のルーツミュージックやディープソウルを志向したり、一転してエレクトロニカのアルバムを作ったりと、良く言えばチャレンジ精神旺盛、悪く言えば節操がない活動を続けてきた。
しかし、そんなことができたのは、長いロックの歴史の中でも、プライマル・スクリームしかいない。
ファンはついて行くのに必死だが、これほど豊かなアイデアと引き出しを持ち、アルバムの度に新しいサウンドを創造し、ロック・シーンに影響を与え続けてきたバンドは他にいない。
ここではそんなプライマル・スクリームの名曲から最高の10曲を厳選し、初めて聴く方のために、できるだけとっつきやすく、彼らの音楽がよくわかるような順に並べてみました。
No.1から順に、気に入ったらぜひ聴き進めてみてください。
Movin’ On Up
プライマル・スクリームの91年物、名盤『スクリーマデリカ』収録曲。
その頃はまだマニアックなインディロック・ファンだけに人気があるガレージ・ロック・バンド、ぐらいの存在だったプライマル・スクリームを、一躍英国ロック・シーンのトップに立たせた起死回生の3rdアルバムだ。
当時のクラブシーンの流行だったハウスと、ロックを融合させた画期的なアルバムだった。
ハウスとロックの融合なんて、それだけならわたしもそんなに聴く気にならないが、そのロック要素はアメリカ南部の香り漂うものだったのが面白いと思った。
この「ムーヴィン・オン・アップ」は、他の曲と比べるとダンス色よりロック色ほうが強いのは、プロデューサーがジミー・ミラーだからだろう。
ローリング・ストーンズの『ベガーズ・バンケット』から『山羊の頭のスープ』までの名作群をプロデュースした、あのジミー・ミラーである。
だから「悪魔を憐れむ歌」を彷彿とさせるギターが出てきたりするのも、意識的にやっているのだと思う。
Jailbird
アメリカ南部のシンボル、南軍旗をジャケットにした4枚目のアルバム『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』の冒頭を飾る曲。
ジャケットからも彼らの目指す方向性は一目瞭然だが、プロデュースに迎えたのはアレサ・フランクリンやオールマン・ブラザーズ・バンド、レーナード・スキナード、ドクター・ジョンなどを手掛けたトム・ダウドだ。
特にこの「ジェイルバード」と「ロックス」は、前作までのダンスとロックの融合をさらに完成度を高めて、南部の香りはするが、まったく新しい響きのロックを創造した。
奇跡のように。
シングルとしては「ロックス」のほうが売れたけど、わたしはこっちのほうが好きだったな。
Rocks
1stアルバムではフォークロック、2ndはガレージロック、3rdはハウスミュージックと、1作ごとに音楽性をガラリと変え、意表をついて楽しませてくれる彼らの4枚目『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』はメンフィス録音、悪魔に取り憑かれたようにカッコよかった1970年前後のローリング・ストーンズを思い出させるような、南部の香りのするロケンロールアルバムだった。
この「ロックス」は、そのアルバムからのシングルで、全英7位の大ヒットとなった。
この大ヒットで、プライマル・スクリームの名は日本でも一躍メジャーになった。
その当時、彼らに一番求められていたタイプのロケンロールで、リスナーの期待にドンピシャで応えたのだ。
Country Girl
8枚目のアルバム『ライオット・シティ・ブルース』からのシングル。
全英5位と、プライマル・スクリームにとって、チャート最高位のヒットとなった、彼らの代表曲だ。
これを初めて聴いたときは本当に感心した。
初期の彼らがバーズに影響を受けていたり、サザンロックやディープソウルを志向したりと、たしかにカントリーをやってもおかしくなかったのだけど、まさかこんな取り入れ方をするなんて、と恐れ入ったものだった。
伝統的なカントリー・ミュージックのテイストを残しながらも、2000年代にふさわしい新しいロックンロールの響きを纏い、実験的なものでも奇を衒ったものでもない、すでに完成したカッコよさと美しさがあった。
やっぱり凄いな、プライマル・スクリームは、と思ったものだった。
Trippin’ on Your Love
そして現時点の最新アルバム『カオスモシス』は、ここ数年の彼らのポップ志向が完熟の様相を呈した素晴らしい作品だ。
アルバムの冒頭を飾るこの曲はまるで、1980年代のエレクトロポップとディープ・ソウルが融合したような、またしても新しい響きの最新ロックを創造してしまった。
Where the Light Gets In
最新アルバム『カオスモシス』から、リードシングルとなった曲だ。
60年代キャンディポップと80年代エレクトロサウンドを融合して、たっぷりとシュガーコーティングした正露丸みたいな、いつものことながら自由すぎる、ノスタルジックなのに最新型のエレクトロ・ポップだ。
わたしはこの曲が大好きだ。愛すべきポップソングである。
それにしてもこれだけのキャリアがあってもまだ枯れることなく、瑞々しい音楽を生み出すというのは、もうマジすげーわ、としか言いようがない。
感性の鋭敏さとロックへの愛がハンパではない、ボビー・ギレスピーとプライマル・スクリームの為せる業なのだろう。
Beautiful Future
9枚目のアルバム『ビューティフル・フューチャー』のタイトル曲。
プライマル・スクリームはまあとにかくいろんなスタイルの音楽をやり、アルバム一作ごとにスタイルを変えていく。
なので彼らのファンには、ロックンロール・アルバムを期待する人もいれば、エロクトロニカやクラブミュージックを期待している人もいて、アルバム発表の度に「ああっ、そっちか!」とか「よしっ、ロック来た!」などと、一喜一憂させられる。
クラブなんて行ったこともないわたしは、エレクトロ系は苦手なので、このリストもロック系のものだけに絞って、プライマル・スクリームをロックバンドとして紹介している。
この曲あたりから、殺伐とした世紀末エレクトロからポップな方向へシフトしたような印象がある、まさにビューティフル・フューチャーなナンバーだ。
Come Together
プライマル・スクリームの初期の代表曲「カム・トゥゲザー」は、それまでのガレージ・ロック路線からガラリと変わり、ハウスとロックを融合した画期的な作品だった。
今から思うと、ここがプライマル・スクリームのターニング・ポイントだったのだろう。
この曲はまずシングルレコードで発売されて、それにはボビー・ギレスピーの歌が入っているのだが、91年の『スクリーマデリカ』に収録されたのはそのリミックス版で、ボビーの歌が入っていない、バックトラックとコーラスのみのバージョンだ。
今はベスト盤にもヴォーカル無しバージョンしか収録されていないので、ボビーの歌が聴けるのはYoutubeのこのMVぐらいなのである。
あの時代の空気がよみがえるような、トリップ感も楽しい名曲だ。
I’m Losing More Than I’ll Ever Have
2ndアルバム『プライマル・スクリーム』収録曲。
彼らのアメリカ南部志向の最初の一歩がこれだったのかもしれない。
そして彼らは、この「アイム・ルージング・モア・ザン・アイル・エヴァー・ハヴ」のエンディング部分を取り出してリミックスした「ローデッド」という、画期的なダンスナンバーをこしらえた。
これがクラブ・シーンでヒットし、次作『スクリーマデリカ』へとつながっていったのだ。
Ivy Ivy Ivy
最後は2ndアルバム『プライマル・スクリーム』からのシングル。
わたしはこの曲で彼らを知った。
埃っぽいインディーズの匂いがプンプンしていて、セックス・ピストルズやらラモーンズやらデトロイトやらグラムロックやらいろんなものが混ざった結果の、これ以上はないというぐらいピュアなロケンロールだ。
今聴くとホントに彼らの原点を見るようで、微笑ましいし、カッコいい。
ここまで来たらもう立派にプライマル・スクリームにハマりましたので、次はぜひ彼らのアルバムをいろいろと聴いてみてください。
ロック好きの方はぜひ最新作『カオスモシス』を、エレクトロ好きの方には『エクスターミネーター』あたりからがお薦めです。
そして全アルバムを聴いたら、新作を待ち焦がれ、次はどんなアルバムだろうと、ワクワクしながらこれからの人生を生き続けましょう。