孤独のロケンロール 〜 プライマル・スクリーム『プライマル・スクリーム』(1989)【最強ロック名盤500】#14

Primal Scream

⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#14
Primal Scream
“Primal Scream” (1989)

1989年9月に発売されたプライマル・スクリームの2ndアルバムだ。

1stアルバム『ソニック・フラワー・グルーヴ』はザ・バーズ風の12弦ギターが特徴的な、60年代サイケ・フォーク・ロック風の作品だった。
しかし12弦ギターを弾いていたギタリストが脱退したこともあってか、本作では音楽性が一変し、アグレッシヴなエレキギターとポップな歌メロのロケンロールや、ディープ・ソウル風のバラードなどで構成されている。2ndながらあえてセルフ・タイトルにしたのも、再出発の意味を込めてのことだろう。

アルバムは瞬間的にインディ・チャート上位まで上がったものの、4週間でチャートから消えてしまった。商業的には失敗となり、またメディアで好意的に取り上げられることもほとんどなかった。wikiによればそのせいでレーベルの広報担当者のクビが飛んだという。

実のところわたしも、当時は全然良いと思わなかったのだ。聴こえてくるのは黄金期のストーンズやMC5やストゥージズ、ニューヨーク・ドールズやロンドン・パンクなどをなぞっただけのように思え、オリジナリティや新しさに欠ける印象だったし、そもそもあの時代にそんな時代錯誤なロケンロールやソウル・バラードをやっているバンドなんていなかったのだ。ダセぇな、と当時のわたしは思ったものだ。だからほとんど聴かなかった。

それよりも次の3rdアルバム『スクリーマデリカ』は、アシッドハウスとロックを融合した画期的な試みの、いかにも耳新しさに満ちた作品であり、名盤と評価され、こちらはわたしも大いに気に入っていたものだ。

しかし35年が経った今、この2枚を聴くと、当時とはまったく違った印象を持つ。『スクリーマデリカ』はもちろん名曲がいくつかあるものの、スタジオ・ワークによる作り物くささを感じるし、とっくに賞味期限切れとなった当時流行のダンスチューンがいかにも退屈だ。

しかし本作からは、迷いのない情熱的なロックや心を揺さぶるソウルがそのまま生き生きと聴こえてくる。35年も経てば、時代錯誤もクソもないものだ。

「Gimme Gimme Teenage Head」や「She Power」のような激しいガレージ・ロックはただただカッコいいし、「Ivy Ivy Ivy」や「Lone Star Girl」などのポップなロケンロールは懐かしさと相まってつい口づさんでしまう。
そして何より「You’re Just Dead Skin to Me」や「I’m Losing More Than I’ll Ever Have」のようなディープ・ソウル風のバラードに心を揺さぶられる。若い頃はこのバラードの良さがよくわからなかったけれど、わたしもその何十年か後にディープ・ソウルにハマったりもして、こんなところに大好物があったとは、という感じである。

ボビー・ギレスピーは1stに比べるとどこか解放されたように生き生きと歌っているものの、しかしその特徴的な華奢で弱々しい声は、あくまで内向きな、絶対的な孤独の影を纏っているように聴こえる。これがまた良いのだ。
わたしより5歳年上の彼に対して、リスペクトというよりは共感を常に感じてきたのは、そのいかにも陰キャで部屋にこもって古いロックばかり聴いてるような、永遠の少年を思わせる声のせいなのだろうと思う。

その後もプライマル・スクリームは1作ごとに大きくスタイルを変えて楽しませてくれたけれども、本作は言わば素のプライマル・スクリームが聴ける、貴重で愛すべき作品だ。10曲32分があっという間で物足りなく思うほどで、何度も繰り返し聴いてしまった。

↓ アルバムからのシングル「Ivy Ivy Ivy」。英インディ・チャートで3位まで上昇した。たぶんだけど、ボビーさんはなにかおクスリをやっているようなご様子。

↓ 心を揺さぶるバラード「I’m Losing More Than I’ll Ever Have」。

(Goro)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする