名盤100選 97 キャロル・キング『つづれおり』 (1971)

女性アーティストを取り上げるのはこれで最後になると思う。
キャロル・キングはそのトリにふさわしい、まさにアメリカン・ポップスの歴史そのもののような女性アーティストだ。

1942年生まれなのでポール・マッカートニーやジミ・ヘンドリクス、ブライアン・ジョーンズ、小泉純一郎、金正日とタメである。
彼女はまず1958年に16歳で歌手デビューする。1958年はチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」が発売された年だ。読売巨人軍の長嶋茂雄がルーキーとして、4打席連続三振でデビューした年でもある。

しかし発表した4枚のシングルはあまり売れず、60年代からはソングライターに転身すると、夫のジェリー・ゴフィンとのコンビで、リトル・エヴァの「ロコモーション」やシレルズの「ウィル・ユー・ラブ・ミー・トゥモロー」、アレサ・フランクリンの「ナチュラル・ウーマン」など(どれもわたしの大好きな曲ばかりだ)を書いて大ヒットを連発する。

そして60年代末に旦那とも別れて、70年代はシンガー・ソング・ライターとして再デビュー。そのセカンド・アルバムがこの『つづれおり』である。
全12曲、次から次に名曲が出てくる。
グラミー賞を受賞し、アルバムチャートで15週連続1位、2,200万枚を超す大ヒットとなり、ついにその名が世界中に知れ渡った。
音楽的にも、70年代サウンドの方向性を決定づけたアルバムのひとつではないかと思う。翌72年には日本で五輪真弓のデビューアルバム『少女』のプロデュースもしている。五輪真弓に限らず、日本の女性シンガーソングライターに与えた影響も大きい。

50年代のロックンロール草創期にデビューし、60年代のポップス黄金時代を支え、そして70年代は時代を象徴するアーティストとして活躍したキャロル・キングは、そのパイオニア的なキャリアといい、実績といい、ロック&ポップス史上最も重要な女性シンガーソングライターである。

それにしても、70年代のこういった生楽器中心のシンプルなサウンドというのは聴きやすくていいですね。40年も経つのに、古臭さをあまり感じずにふつうに聴くことができる。
60年代のサウンドはやはり今聴いたら音質の面で限界を感じるし、80年代のサウンドというのは、たぶんポップスの歴史上もっとも変てこりんなサウンドだったと思う。なんだかとてつもない失敗感を感じる。われわれはまだノスタルジーとともに聴けるので我慢できるのだけど、90年代生まれの、今の若者たちが聴いたらきっと困惑するような、リアリティ皆無の異様に安っぽいサウンドに聴こえるのではないだろうか。

ちょっと80年代の悪口を思わず言ってしまったが、あの頃のわたしは鬱屈していてみんな死ねばいいとか思っていたので、80年代の思い出がみんな嫌いなだけかもしれない。
でもあの80年代というのはほんとうに「ファンタジーの時代」だったような気がします。
あのころはなにか文明のひとつの到達点みたいにはしゃいでた気がしますね。今から思うとただのバブリーなファンタジーだったのだけど、わたしはリアリティ派なのでノリがよくわからなかったし、バブリーなファンタジー派の人たちがとてもおバカに見えてしかたなかった。

いけない、また筆がすべってしまったけど、そんなことはどうでもよくて(あの頃のわたしにとっては切実にどうでもよくなかったが、年を取るとそんな怨念もすっかり忘れ去るものだ)、わたしはロックでも歌謡曲でも、70年代のサウンドがいちばん聴きやすくて好きだなあ、ということが書きたかっただけです。
最近、桜田淳子のベストアルバムを聴いたときにあらためてそれを思いました。

そのうち、そんなことも書いてみたいですね。