ダブリンの高校の掲示板に15歳のラリーが「バンドメンバー募集」と貼り紙をして、集まったのがやはり15~6歳の高校生たち、ボノ、アダム、エッジ、ディック(エッジの兄ちゃん)だった。
エッジの兄ちゃんはすぐに抜け、4人になったタイミングでバンド名を「U2」と名付けた。
激しさと艶っぽさを備えた独特の声の持つヴォーカリストと、新たなギターの響きの可能性を追求し続ける錬金術師のようなギタリスト、やんちゃな少年のままのような疾走感と躍動感をいつまでも失わないパワフルなリズム隊と、よくもまあこんなベストなメンバーが貼り紙1枚で揃ったものだと感心する。
以来42年間、この奇跡のロックバンドはメンバーチェンジを一度もすることもなく、一度もパワーダウンすることなく、ロックシーンの先頭集団で走り続けている。
凄いことだ。
そんなバンドは他にいない。
ここではそんなU2の最高の名曲から、はじめて聴く人にお薦めの10曲に厳選した《決定版ベスト》を、曲順にもこだわって選んでみました。
I Will Follow
1stアルバム『ボーイ』からのシングル。
当時はチャートにも入らず、あんまり売れなかったみたいだけど、すでにU2以外の何物でもないU2サウンドが誕生した曲だ。わたしは未だにU2というと真っ先にこの曲のイントロを思い出してしまう。
1980年という、パンクが終わってニューウェイヴが始まったあたりの難しい時代にデビューすることになったU2だけど、パンク寄りのストレートなガレージロックのテイストを残しながらもヴォーカルは80年代風、というのがちょうどよかったのだと思う。
まさに「初期衝動」と言うべき、この疾走感がたまらない。
Sunday Bloody Sunday
ラリーのバタバタしたやんちゃなドラムが印象的な、1972年に北アイルランドのデモ隊を英国陸軍が銃撃して死者14名を出した「血の日曜日事件」をテーマにした、激しい怒りに満ちた曲だ。
この曲が発表されたのは、マイケル・ジャクソンの「スリラー」と同年で、まさにMTVの黄金時代が始まった年だった。
王道ロックをパンクが駆逐しまった後で、そのパンクもいなくなってしまい、ニューウェイヴは地階へと潜り、産業ロックとMTVがグローバル企業のように世界征服していく中で、唯一気骨のある昔ながらのロックスタイルで新しいサウンドを創り出していたのがU2だった。
特にこの曲や「ニュー・イヤーズ・デイ」あたりは硬派な印象もあって、「昔ながらの武骨でカッコいいロック」に飢えていたロック好きたちのハートをガッチリと掴んだ。
New Year’s Day
U2の名を世界に知らしめることになった、出世作。
ポーランドの民主化運動をテーマに書かれた歌なので、1983年1月1日にポーランド政府が発令した戒厳令のことを歌っているように思いきや、実際には逆で、先に曲が書かれていて、録音も済ませ、PVも撮り終わって、その後で本当に戒厳令が発令されたのだそうだ。この恐ろしい偶然にはさすがのU2もビビったらしい。
ピアノによるイントロが印象的で、シンプルで覚えやすいが、暗い影と緊張感の漂う名曲だ。
ライブではいつもギターを提げたままでジ・エッジがピアノ部分を弾いている。
やっぱり、ときどき間違えるそうだ。
Where the Streets Have No Name
特徴的なエッジのギターはもうイントロから、これぞU2!って感じで威勢よく響き渡る。
リズム隊のグルーヴはこのバンドが最高のロックバンドだということを教えてくれるし、ボノの情感と説得力に満ちた声が合わさると、ただのロックンロールを超えた、強い意志と豊かな響きの音楽に感動する。
動画のPVはロサンゼルスでゲリラ的に撮影されて話題になったものだ。
現場はやや混乱しているものの、この頃のU2の勢いはまるで世界中を味方につけているかのようで神々しいばかりだ。
I Still Haven’t Found What I’m Looking for
1987年発表の5枚目のアルバム『ヨシュア・トゥリー』収録曲。
このアルバムは重厚かつ斬新なアルバムだったにもかかわらず、めちゃくちゃ売れて、全米チャート9週連続1位という快挙を遂げた。MTVでもヘビロテになった。
当時のMTVなんて、チャラい服を着て金ぴかのクソを垂らしながら歌うようなバンドしか流れていなかったので、当時21歳ながらなぜか現代文明を避けて洞穴の中で古臭い音楽ばかり聴いていたわたしの耳にも、この生真面目なゴスペル風の、スケールの大きな響きを持つ新世代のロックは魅力的だった。
特にこの曲は、ゴスペル風のメロディが耳に残ることでいちばん最初に好きになった曲だった。
With or Without You
これも『ヨシュア・トゥリー』収録曲で、実を言うとわたしは前の2曲ほど好きな曲ではないが、しかしU2初の全米No.1シングルであり、今でもたぶんU2の最も有名で人気の高い曲のひとつだろう。
日本でも『眠れる森』という木村拓哉主演ドラマの主題曲に使われたこともあり、広く知られることになった。
One
U2の91年のアルバム『アクトン・ベイビー』からの大ヒットシングル。
今回これを書くにあたって、いつものようにU2の全アルバムを聴き直してみたけど、最高傑作はやはりこの『アクトン・ベイビー』かな、とあらためて思った。
銀メダルが『ヨシュア・トゥリー』で、銅メダルは『原子爆弾解体新書』かな。
『アクトン・ベイビー』はU2の最高傑作のみならず、90年代ロックを代表するアルバムでもある。
『ヨシュア・トゥリー』までのシリアスで重厚なイメージから一転した、全曲シングルカットできそうなほどポップでキャッチーな、ジ・エッジのカラフルに音色を変えるギターを中心に据えたバラエティに富んだ楽曲が並ぶ。
ぶっちゃけこの「ワン」と同じぐらい魅力的な名曲がこのアルバムにはあと8曲収められている。そのすべてをここに選ぶのは無理なので、断腸の思いで泣く泣くすべて見送り、この今ではU2で最も有名になった曲に代表させることにした。
VH1の番組「The Greatest」の企画「90年代の最も偉大な100曲」では、ニルヴァーナ「スメルズ・ライク…」に次ぐ2位。
ローリング・ストーン誌のオールタイム・グレイテスト・ソング500で、36位(U2の楽曲としては最高位)。(出典:ウィキペディア)
Beautiful Day
U2の10枚目のアルバム『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』のオープニング・ナンバー。
90年代にダンスビートや実験的要素を深化させたU2が、わかりやすい王道ロックに原点回帰したと歓迎され、大ヒットした曲だ。
グラミー賞で、最優秀楽曲賞、最優秀ロック・アルバム賞、最優秀ロック・グループ賞など多数受賞。
Vertigo
11枚目のアルバム『原子爆弾解体新書〜ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』のオープニング・ナンバー。
iPodのCMで使われたことでも有名になった曲だ。
U2史上で最も豪快で爽快なロックナンバーだ。初めて聴いたとき、「うわーっ、おっさんになってもあいかわらず元気じゃん!」って嬉しくなった。
当時彼らは四十代半ばぐらいで、おっさんというとアレだけど、若者ではない。
いつまでもこういうパンク野郎みたいなところが残っているのが彼らの魅力でもある。
これを聴いたときに、わたしのいちばん好きなギタリストはジ・エッジかも、と思ったものだった。
The Miracle (Of Joey Ramone)
13枚目のアルバム『ソングス・オブ・イノセンス』のオープニング・ナンバー。
「ジョーイ・ラモーンの奇跡」というタイトルからもわかるように、この曲は初めてラモーンズを聴いたときの衝撃と喜びを歌っている。
奇跡が起こっておれは目覚めたんだ
その歌を聴いて、世界の意味が少しわかったんだ
失ったものもすべて取り戻した
おれが今まで聴いた中で、最も美しいサウンドだった
(written by U2)
U2はラモーンズに大きな影響を受け、ボノは「ラモーンズがいなかったらU2もなかった」と語っている。
その通りだろうし、きっとわたしもラモーンズが存在しなかったら、あまり面白くもない人生を歩んで、安定した会社で面白くもない仕事に没頭し、アバンチュールのひとつもなく、地道にコツコツと働いて、順調に給料が上がって、娘を良い大学にやって、家族円満で、なに不自由ない人生を送っていたのかもしれない。
以上、【はじめてのU2 名曲10選】 でした。
もしもU2のCDを初めて買うなら、もちろんベスト盤でもいいですが、あえてオリジナルアルバムを聴いてみたいという方には1987年の『ヨシュア・トゥリー』、91年の『アクトン・ベイビー』、2004年の『原子爆弾解体新書〜ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』あたりから聴いてみることをお薦めします。