名盤100選 39 U2『アクトン・ベイビー』(1991)

アクトン・ベイビー

言うまでもないがU2は、現在のロックシーンにおいても世界最高のロックバンドのひとつである。

もう30年もやっているのにいまだに懐メロバンドにならず、現在に至るまでシーンの最前線から一度も退いたことがなく、常に革新的なサウンドの創造を探求してやまない、生真面目でストイックでありながら奔放に好き放題やらかしているエンターテインメントロックバンドである。
レディオヘッド、オアシス、コールドプレイ、メタリカ、グリーン・デイ、頑張ってるロックバンドはたくさんあるにしろ、あらゆる意味において、U2に太刀打ちできるバンドは今のところひとつもないと思う。

ほんとうに、生真面目なバンドだと思う。
「仕事が出来る」という言葉が似合うロックバンドだ。彼らならサラリーマンに転身してもバリバリと働いて、会社を業界ナンバーワンに育て上げることぐらいのことはやるだろう。
真面目は美徳である。
不真面目はいくら頑張っても、絶対に真面目にはかなわないのである。これは人生における真理である。わたしは去年やっとわかった。
ときには彼らも悪ふざけのような曲を書いたり、悪ふざけのようなショーをしたりもする。しかし彼らは悪ふざけにさえも徹底的に磨きをかけて、おそろしく完成度の高い悪ふざけを行うのである。わたしは彼らのそんなユーモアのセンスも好きだ。

彼らが天下を取ったのは87年の『ヨシュア・トゥリー』だった。
ロックアルバムの限度を超えているような、恐ろしく美しいアルバムである。ふつうならこれ1枚あればロック史に永久に名を残すことができるだろう。
でも彼らは次のアルバム、91年の『アクトン・ベイビー』で驚くべき進化を見せ、その引き出しの多さを見せつけた。

収録された12曲は全部シングルカットできると思わせるほどの、ものすごい出来だった。
まだ若い荒削りなアーティストたちのアルバムを聴くことが多く、まあ1曲か2曲面白い曲があればOK、というレベルに慣れきっていたわたしにとっては驚くべきアルバムだった。この12曲を1曲ずつくれてやれば12のバンドが新たに世に出ることが出来るのに、と思ったほどだ。
実力の違いを見せつけられた思いだった。別格だなあ、とわたしは思った。

『アクトン・ベイビー』は極上のポップ・アルバムである。
実験的で新しい響きを創造しながら、それを見事にエンターテインメントのポップソングに仕上げている。
「ロック」というちょっとこだわり的に語られがちな音楽を、ポップソングという原点に回帰させ、エンターテインメントとして最上のものを熟練の技と斬新な発想で完璧に真面目に提出して見せてニヤニヤしているかのようだった。

ダンスビートも轟音ギターも、難しい歌詞やエッチな歌詞も、すべてはエンターテインメントのためである。
この真理は意外に忘れられがちである。ロックはエンターテインメントではないと考えている人も多いのだ。マドンナやアバとは違う、もっと高級な音楽だと考えているふしがある。

わたしはそうは思わない。
マドンナもアバも浜崎あゆみもU2もレディオヘッドもボブ・ディランも、同じエンターテインメントで、ポップ・ソング以上のものではないと思っている。
精神性やら物語やら、商業性でさえも、そんなものは聴く側が勝手にしているだけである。
まずはメロディとハーモニーとリズムと音色の組み合わせがあるだけだ。U2がダンスビートを導入したのは思想のためではない。エンターテインメントのためである。

わたしはできるだけこだわりや先入観を捨てて音楽を聴きたいのだ。
ジャンルを問わず、アーティストを問わず、わたしの耳がその曲のメロディやサウンドや歌詞などを好むかどうかだけにこだわりたい。
わたしの耳がなにに反応するのかを可能な限り知りたいとわたしは思っている。それがわたしの、短い人生のあいだに音楽をできる限り楽しむための方法論である。
そのような、音楽に対するわたしのアホみたいにこだわりのないスタンスは、さかのぼるとこのU2の『アクトン・ベイビー』を聴いたときの感動に辿り着くのかもしれない。

U2は4人とも凄いプレーヤーだが、とくにわたしはジ・エッジのギターが面白くてたまらない。
アルバムのたびごとにいちばん楽しみにしているのは今回はどんな変テコなギターを弾いて楽しませてくれるかということだ。
『ヨシュア・トゥリー』『アクトン・ベイビー』と並んで2004年の『原子爆弾解体新書』も大傑作である。iPodのCMでも有名になった”Vertigo”はまたエッジのギターが強烈でサイコーである。今の時点ではこの曲がわたしのベストワンだ。

先週出たばかりの最新アルバム『ノー・ライン・オン・ザ・ホライズン』も聴いてみた。一聴しただけなので感想がかけるほどではないが、とりあえずは、素晴らしい、とだけ思った。
現役のロックバンドで、わたしが20年後も新譜を聴いてみたいと思えるのはU2ぐらいのものだ。

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コメント

  1. ゴロー より:

    さすがに
    さすがにU2となると完璧に語りますね。

    そうだな、わたしにとっての三大ギタリストはニール・ヤング、ジ・エッジ、サーストン・ムーアだけど、たしかにみんな自由だな。

  2. フェイク・アニ より:

    ジ・エッジと私
    ロック・ギタリストである為のルールは?と問われれば、それは第一に『自由である事』だ。
    僕の中で最高のギターヒーローの一人は間違いなくジ・エッジである。
    ボノも以前言っていたが、あの人は先祖も子孫も無い一代限りの突然変異体的なギタリストだ。「コピーする力量がなかったからオリジナルを創るしかなかった」というバンドの来歴と同様、あの人のギターは(もちろんブライアン・イーノ師の影響は否定できないが)個性的で、真に自由だ。
    まるで洞窟の中で一生を終える視力の無い生物が、異常に臭覚や皮膚感覚が研ぎ澄まされているかのように特異だ。
    僕は、やたらと人当たりは良いが実は他人の真似がとても苦手なので、なにかと独学でやろうとする癖があって、そのおかげでそれこそ「大きな大きな迂回」をしてしまうのだけれど、ジ・エッジのギターを聴くと「たぶん間違ってないな」って思うことができる。
    今回聞き直したもう一つの名盤『魂の叫び』の一曲「WHEN LOVE COMES TO TOWN」で御大BBキングを相手に一歩も引かず、と言うより別の時空で自分のギターを弾くあの人に 久々にシビれた。
    僕が「好きなバンドを3つあげよ」と言われたら、1番にあげるバンドU2。ぶっ通しで4時間は軽く語るから、誰ぞ着き合え。

  3. ゴロー より:

    おっ、r-brues氏はトラックバックを付けてくださったんですね。
    ありがとうございます。

    と言ってももちろん読んでましたよ。参考にさせていただいてます。もちろん奥様はロックンローラーのほうも。

    ちょうど今回の記事を書くために”Sunday Bloody Sunday”もあらためてじっくり聴いたのだけど、このドラムはやっぱりスゴいなと思いました。こんなこと考えるなんて、なんて真面目な連中なんだ、とあらためて感心しました。

    またそのうちコメントでも書かせていただきます。頑張って更新してくださいね(笑)。

  4. ゴロー より:

    ありがとーまだ読んでくれてたのね
    わたしも笑わせてもらいました。
    だってこのfunnyfaceさんのコメント、どう読んでもU2が好きなようには思えない。そのコインのお父さんは好きみたいだけど(笑)。

    それでも10曲選んでくれるというのだから楽しみにお待ちしています。

  5. funnyface より:

    きましたね~
    U2。

    でも、実は全部のアルバムを聴き倒した訳じゃないのです。
    正直なとこ、中高生の頃は「よくわからない、、、」で過ぎてしまい、
    ここ2~3年に「なるほどね~」とちょっとだけ理解できたというか。
    (なんちゅ~曖昧な表現だ!)

    何年か前にTVでU2のドキュメンタリー番組をやっていて、アイルランドを出てくる時、お父さんがコインを渡してくれたっていう話に涙してしまい、それから「よし!ちゃんと聴いてみよう!」と思ったのです。
    (この手の話に弱い)

    さてさて、10曲選ぶのにも全部を知らないからな~。
    知ってる中で考えときますね。

    追伸:生真面目は美徳の最後「わたしは去年やっとわかった」にコーヒー吹き出しそうになりました。

    そんなゴロー氏が素敵です。