ザ・ドアーズは、60年代アメリカのロックバンドでは、商業的にも最も成功したバンドだ。
それにしてもよくこんなダークなロックが売れたものだ。
わたしにとってドアーズと言ったら、史上初めての闇属性のロックバンドであり、文学と音楽の交配による突然変異的に生まれた、背徳的な畸形のロックである。
サーカス小屋のように華やかでポップだが、見世物小屋のようにダークで不気味でもある、オリジナリティ溢れる名曲をドアーズは数多く残した。
ヴォーカルのジム・モリソンは、徹底して性的な肉体と詩的な思索を備え、獣のような原始の声で雌を支配する王のようでもある。
彼は、今に至るロックスターの原型となった。
ここではそんなドアーズの、はじめて聴く人にもドアーズがよくわかる名曲を10曲、厳選して選んでみた。
Break on Through (To the Other Side)
ドアーズのデビュー・シングル。このPVは自分たちで作ったそうだ。
ジム・モリソンとレイ・マンザレク(キーボード)はUCLA映画科の学生だったのだ。
当時はヒットしなかったようだけど、わたしはドアーズでいちばん最初に好きになった曲だった。
ジャズを思わせる不穏なイントロで始まるこの曲は「向こう側へ突き抜けろ!」と歌う、ドラッグ・ソングであり、彼らの突き抜けた音楽性を象徴する曲でもある。
この曲から始まる、いきなり完成度MAXの1stアルバムは凄かった。ロック史に残る、超名盤である。
しかし、夜にしか聴けなかった。
当然だが、こんなアブないものは、昼間っから聴くものではない。
Light my fire
ドアーズの2枚目のシングルで、全米チャート1位の大ヒットを記録した、彼らの代表曲である。
ドアーズが全米No.1の時代って。
なんだか凄い時代だなあ、とちょっと羨ましく思う。
下の動画はTV用なので切ってあるが、オリジナルでは間奏が3分以上も続き、最後は獣のようなジム・モリソンの絶叫で終わる、全米1位のヒットソングとしてはやはりどう聴いても異様な曲であることは否めない。
Take it as it Comes
この曲も1stアルバム『ハートに火をつけて(The Doors)』収録曲。
ちょっと「ハートに火をつけて」に似た感じの、シンプルでキャッチーな曲だ。シングルカットはされていないが、わたしはこの曲が好きだ。
ラモーンズの92年のアルバム『モンド・ビザーロ』でこの曲をカバーしているのを聴いたときは嬉しかったなあ。
People are Strange
全米2位まで上がる大ヒットとなった1stアルバムから、わずか7カ月後に発表された2ndアルバム『まぼろしの世界(Strange Days)』収録曲。このアルバムも全米3位の大ヒットとなった。
この曲はドアーズの3枚のシングルにもなった。全米12位。
メロディアスだが、古風なフォーク・ソングのような香りもすれば、サイケデリックな要素もある不思議な曲だ。
このアルバムはジャケットがまた良くて(メンバーが写っていない唯一のジャケだ)、この曲の見世物小屋のようなノスタルジックな雰囲気にピッタリだ。
Love Me Two Times
イントロのギターのフレーズが印象的な、ドアーズ流の絶倫系ブルース。
「おれはしばらく戻らないから、2回はやっとこうぜ」と歌っているだけだが、ジム・モリソンの歌い方がまたくっそエロくてカッコいい。
こんふうに歌えるのは彼しかいないだろう。
あのルックスでこんな風に歌われたら、2回どころじゃ済まないのではないか。
ドアーズ4枚目のシングルで、全米25位。
Hello, I Love You
ドアーズの3rdアルバム『太陽を待ちながら(Waiting For The Sun)』からのシングルで、「ハートに火をつけて」以来の2度目の全米1位を記録した大ヒット曲。このあたりから少しの間だが、ポップ路線のほうに寄っていく。
勢いに乗って、アルバムは彼らにとって初の全米1位となった。
キンクスの「オール・オブ・ザ・ナイト」に似ている、盗作だ、と騒がれたという。
まあ、確かに似ているな。
Touch Me
4枚目のアルバム『ソフト・パレード(The Soft Parade)』からのシングルで、これまた全米3位の大ヒットとなった。
大々的にホーンやストリングスを入れて、サウンドの印象がガラリと変わり、曲調もかなりポップになった、ドアーズとしては異質のアルバムで、これが苦手という人も多かった。
わたしもそのひとりだ。
しかし、好みは人それぞれなのでわからない。
こういうポップなドアーズが良いという人だっているだろう。
このシングルもよく出来たポップソングで、カッコいい曲だ。
Roadhouse Blues
5枚目のアルバム『モリソン・ホテル(Morrison Hotel)』のオープニングを飾る曲。
アルバムは全米4位と、前作を上回るヒットとなった。
前年のシングル、「ハロー、アイ・ラプ・ユー」そして「タッチ・ミー」あたりでややポップ路線に横滑りして脱輪しそうになった感があるけど、この曲でまた野蛮なエネルギーに満ち溢れたドアーズが還ってきた。
『モリソン・ホテル』が彼らの傑作として評価されているのも、冒頭のこの曲の印象が強いせいもあるのではないか。
ドアーズというとキーボードの印象が強いが、この曲ではハードなギターが前面に出ていて、これがまたカッコいい。
そしてもちろんジム・モリソンのワイルドなヴォーカルも絶好調だ。
L.A.Woman
ベースがいないという短所をキーボードなどで補い、それが結果的にドアーズの独特のサウンドになり、個性になっていたのだが、ついにこの6枚目のアルバムでドアーズはベースを入れることになった。
レコーディングに呼ばれたベーシストは、ジェリー・ジェフという「エルヴィス・オン・ステージ」で弾いていたベーシストだ。
ベースが入ったことによって、なんとなくフワフワとしたところのあったドアーズサウンドが、ビシッと締まったサウンドになっている。
この「L.A.ウーマン」はブルース・ロック的なナンバーだが、たぶんドアーズの中では最もテンポが速く、グルーヴ感もある、ドアーズ流ロックンロールと言えるかもしれない。ベースがいなかったらこんなグルーヴは生まれなかっただろう。
このアルバムがリリースされたわずか3か月後、ジム・モリソンはパリのアパートで、バスタブの中で死んでいるのを発見された。
警察は死因を「心臓発作」と発表したが、当時の恋人パメラの証言によって、薬物の過剰摂取が原因と考えられている。
ロバート・ジョンソン、ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、カート・コバーン、エイミー・ワインハウスらと同じ、27歳で、ジム・モリソンもこの世を去った。
The End
1stアルバムの最後に収められた、その究極的にダークな世界観によってドアーズの代名詞ともなった代表曲。11分40秒という長い曲だ。
歌詞は、ギリシャ神話のエディプス王の話をベースにジム・モリソンが書いたと言われている。
父さん、あんたを殺したい。
母さん、あなたとヤリたい。
そういう歌だ。
1967年当時、これほど深い闇が歌われた、ダークなロックは無かった。
その意味で、一気にロックの可能性を、闇方向へ押し広げた曲と言っても過言ではないだろう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
もし最後の「ジ・エンド」まで気に入ったら、もう立派なドアーズ・ファンだ。
心身の健康には気をつけて、心ゆくまでドアーズを楽しんでほしい。
アルバムはもちろん1stアルバム『ハートに火をつけて』がお薦めだ。
名曲揃いであることはもちろん、ロックの可能性を、サウンド面でも世界観の面でも一気に押し広げた画期的なアルバムだった。
もしもこのアルバムが無かったら、ロックはもっとつまらないものになっていたと、わたしは断言できる。