ちあきなおみ/朝日のあたる家(1990年頃?)

VIRTUAL CONCERT 朝日のあたる家

【カバーの快楽】
日本語詞:浅川マキ 作曲:作者不詳(伝承曲)

日本の歌謡史を代表する歌姫、と言えば真っ先に美空ひばりの名前が上がるだろうけれども、彼女と双璧を成すのがこのちあきなおみだと思う。陽と陰のイメージの違いや好き嫌いはあるだろうけれども、ちあきなおみのヴォーカリストとしての実力は互角かそれ以上だと思う。

なんと言っても、歌の世界への没入感が物凄い。鬼気迫るほどだ。これはもう演技などというものではない。憑依だ。

この「朝日のあたる家」はアニマルズのバージョンが大ヒットしたことで有名になったが、元々はアメリカに伝わる作者不詳の伝承曲で、ウッディ・ガスリーやジョーン・バエズ、ボブ・ディランなどによって、フォーク・ソングとして歌い継がれてきたものだ。

日本ではこれを浅川マキが日本語に訳して歌ったが、ちあきはその浅川マキのバージョンをカバーした。

ボブ・ディランはアニマルズのバージョンを聴いて嫉妬を覚えたと言うが、このちあきなおみのバージョンは、そのアニマルズさえ霞むほどの、圧倒的な歌の世界だ。
日本人にこの歌を薦めるとしたら、アニマルズではなく、迷わずちあきなおみのバージョンをお薦めする。

ちあきのこの曲は現在、YouTubeで何種類か見ることが出来るが、わたしはこの動画にいちばん感動した。魂が震えるような感動とはこのことか、と思うほどだ。

もう少し若い頃の映像では、いかにも娼婦のような蓮っ葉な動きで歩き回ったりもしていて、それも良いのだけれど、この動画はほとんど動かず、ただ歌声と表情だけですべてを語り尽くしている。歌の世界に没入しすぎてもう帰ってこれないんじゃないか、などと見ているこっちが恐ろしくなってしまうほど、憑依の仕方が凄い。
一瞬、カメラから顔を背けて、見えないところで涙を拭うようなところは演技ではないようにも見えるし、最後の微笑などは、まるで数時間にもわたる長編映画のラストシーンのようだ。

バラエティ番組でコントをやったり、CMではコミカルなキャラクターを演じることもあったので、そのギャップがまた凄いのだけど、いったんマイクを握ったら豹変する、本当の天才歌手だった。

1992年にちあきなおみは最愛の夫と死別し、火葬場で棺にしがみつき「わたしも一緒に焼いて」と泣き叫ぶ姿を最後に、その後、彼女は公の場には一度も姿を見せていない。70代半ばとなった今も独りで静かに暮らしているという。

しかし時を経ても伝説は生き続け、毎年のようにCDが発売されたり、テレビの特番が放送されるなどして、時代を超えて聴き継がれている。

こんな女性歌手って、美空ひばりと山口百恵、ちあきなおみぐらいだろうな。

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