レナード・コーエン/ソー・ロング、マリアンヌ(1967)

SONGS OF LEONARD COHEN [12 inch Analog]

【60年代ロックの快楽】
Leonard Cohen – So Long, Marianne

カナダ出身のレナード・コーエンは、1950年代末ごろから詩人・小説家として活動し、67年に1stアルバム『レナード・コーエンの唄(Songs of Leonard Cohen)』でシンガー・ソングライターとしてもデビューした。まさに現代の「吟遊詩人」のようなアーティストだった。

英語とフランス語の両方が公用語というカナダの、文化的立ち位置の特異性によるものなのか、レナード・コーエンの音楽性も、ボブ・ディランのようなアメリカのフォークやカントリー風でもあれば、フランスのシャンソン風でもある、独特のものだ。

この曲はその1stアルバムからのシングルで、フランスでのみ28位にチャート・インした。

この曲のモデルとなった「マリアンヌ」とは、60年代初頭にコーエンがギリシャの島で出会った実在の女性だ。

マリアンヌは当時、ノルウェーの著名な詩人の夫とのあいだに生後1カ月の息子がいたが、夫は他の女のところへ行ってしまった。

コーエンとマリアンヌは親密な間柄になり、カナダに戻って一緒に暮らすようになった。
彼女は「恋人兼ミューズ(芸術の女神)」と呼ばれたほど、レナード・コーエンに多くの作品を書かせる原動力となったという。

そしてこの曲はそんな彼女に別れを告げた曲だ。

それにしても「愛」というものはやっかいなものらしい。
無関心すぎてももちろん壊れるけど、情熱的過ぎてもやっぱり壊れるものなのだろう。彼の強い想いが伝わるこの美しい曲を聴いていると、そんなふうに思えてくる。人生というのはつくづくムズいものだ。

彼がマリアンヌと一緒に暮らしたのは8年ほどだったそうだが、しかしその後も連絡は取り続けたという。
そしてマリアンヌが71歳で癌を患い、彼が彼女に送った手紙がなんとマリアンヌの死の前日に届いたという、涙なくしては読めない感動的なエピソードをrockin’on.comが紹介している。
https://rockinon.com/blog/nakamura/150407

わたしはこの手紙で、コーエンが「がんばって。元気になったらまた逢おう」ではなくて、「さようなら。あの世でまた逢おう」と書いてるところに少し驚いた。まだ死んだわけではないのに。禅僧の僧侶の資格も持つコーエンの、死を恐れない死生観ということなのか。

そして手紙を読んだ翌日にマリアンヌは死去し、そして3か月後にコーエンもまた、後を追うようにあの世に旅立った。
彼女に再会したくて仕方なかったのかもしれない。

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