【放送禁止歌の真相】なぎらけんいち/悲惨な戦い(1974)

悲惨な戦い

【ニッポンの名曲】
作詞・作曲 なぎらけんいち

前回の〈【放送禁止歌の真相】赤い鳥/竹田の子守唄〉の項で、そもそもこの日本に「放送禁止」という制度など一度も存在したこともなく、存在したのは民放連が作った「要注意歌謡曲一覧表」であり、これらの歌については各放送局の各番組で放送するかしないかを判断するよう注意喚起するだけのもので、強制力などなかった。数々の名曲を放送禁止にしていたのは各放送局の現場スタッフたちの「事なかれ主義」や思い込みによるものだった、ということを書いた。

その「要注意歌謡曲一覧表」にはなぎらけんいちの「悲惨な戦い」も入っている。わたしの大好きな曲だ。わたしはこれを初めて聴いたとき、声を上げて爆笑したものだ。それぐらい面白い。なぎらけんいちのそのクールな歌い方と絶妙な間の取り方など、その弾き語りの巧さにも感心した。

しかし、この滅法面白い歌のなにがいけなかったのか、イマイチよくわからない。

「要注意歌謡曲」の判断基準は、以下の10項目である(一部要約)。

1. 人種・民族・国歌などの誇りを傷つけるもの
2. 個人・団体・職業などの名誉を傷つけるもの
3. 心身に欠陥のある人の感情を傷つけるもの
4. 犯罪・暴力などの反社会的な言動に共感させるもの
5. 情事や肉体関係を露骨に表現したもの
6. 不純な享楽や不倫など社会秩序を損なうおそれのあるもの
7. 男女の性的特徴を扱い、品位に欠けるもの
8. 退廃的・虚無的・厭世的で著しく暗いもの
9. 卑猥・不潔・下品など、不快感を与えるもの
10. 表現が暗示的・曖昧でも、意図するものが連盟放送基準に触れるもの

「要注意歌謡曲一覧表」にはわがセックス・ピストルズの「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」なども入っているが、これはたぶん、1に抵触するということなのだろう。

かの有名なつぼイノリオの「金太の大冒険」などは7なのだろうし、黒沢年男の「時には娼婦のように」は5と6に抵触しているのだと思われる。

そしてこの「悲惨な戦い」はと言えば、力士やNHKが出てくるので、もしかすると2に抵触するのかもしれない。

しかし実際に各放送局で放送禁止の措置がとられた原因には、「要注意歌謡曲」に選出されたからだけでなく、「相撲協会からクレームがあった」からと永らく信じられていたことにもある。しかし、なぎらけんいち本人はそれを否定しており、相撲協会がクレームを入れた事実などない、というのが本当のところだ。

実際にクレームなどないのに、「そういうクレームがあるかもしれない」という、やはり各放送局の現場サイドが「かもしれないビビり自粛」をしていたに過ぎないということが後に判明した。発売から30年が過ぎた頃に。

このレコードはヒットして、15万枚を売り上げたそうだが、これがもっとラジオやテレビで流れていたらもっともっと売れただろう。なぎらけんいちも左うちわでビールをガブ飲みできたかもしれない。腰抜けメディアの罪は重い。

最後に、この「悲惨な戦い」で歌われた大相撲史上の大事件が、本当にあったことなのかどうかはここでは触れないでおく。

だって、本当にあったことだと思って聴いたほうが面白いじゃない。

Visited 17 times, 1 visit(s) today

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする