名盤100選 69 ザ・キュアー『ウィッシュ』(1992)

Wish

1950年代のロックンロール草創期から2000年代のややこしいロックまで、それぞれの年代によっても音楽には違いがあるが、わたしが少々苦手なのが80年代の音楽である。

ヴィジュアルを重視しすぎる傾向や、やりすぎな陰鬱さや自己陶酔、安っぽい主義主張、そして100均で売ってるプラスチック製品のように軽くて薄っぺらくて魂の感じられないサウンド、80年代の音楽のわたしのイメージはそんな感じだ。

でももちろん例外はいる。いつだって。
80年代イギリスを代表するロックバンド、ザ・スミスが好きだったと以前に書いたけど、その次となるとわたしはキュアーをよく聴いた。
しかしキュアーもまた、必要以上に暗すぎる、と当時から思っていたし、フロントマンのロバート・スミスはリアル・シザーハンズとでも呼べそうなやつだった。
現在の日常生活で、キュアーを聴きたくなるようなことはもちろん無い。でも当時は他に無いので少しだけガマンして聴いていた。

ロックが瀕死の状態だった80年代の終わりにストーン・ローゼスが先陣をきって出てきて、奇跡のように英国ロックは復活した。
次から次へと出てくる新人アーティストたちは突き抜けたように明るく、まるでこれまでの憂さ晴らしのように、アンプのヴォリュームを思いっきりあげて、まあハッタリも多分にあったものの、70年代のパンク・ムーヴメント以来の、久々に刺激的なロックを聴かせてくれた。

そして1992年、次々とブレイクするそんな若いアーティストたちに混じって、キュアーはこの9枚目のアルバム『ウィッシュ』を発表した。

わたしは正直言ってあまり期待もしていなかったのだが、しかし聴いてみてその出来の良さに驚いた。
格の違いを見せつけられた感じだった。
うわ、キュアーって本気出したらこんなに凄いのか、とわたしは思った。
暗い自己陶酔野郎などと実は思ってたけど、ごめんなさい、本当はこんなに実力のあるバンドだったのね、という感じだった。

曲調もバラエティに富み、若いアーティストたちとは持ってる引き出しの数が違うと思った。
「フライデー・アイム・イン・ラヴ」はキュアーらしからぬ明るい曲調で完璧な出来のポップ・ソングだし、「レター・トゥ・エリス」には、これほど美しい曲をキュアーは書くのかと感動した。
わたしが聴いた中ではキュアーの最高傑作であり、この年の最も印象に残るアルバムのひとつだった。

当時よく飲みに行ってたビアーズ・ロックという店でフェイク・アニに会ったとき、どちらがどう言ったのかまでは覚えていないが、顔を見るなり、
「キュアーの新譜が凄いよ」
「もちろん聴いてるよ」
「最高だね」
「最高だな」
そんないつも通りの会話をしたのを覚えている。
なぜかチュロスのことをチェロスと思い違いをしたまま延々と語っていたが。

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コメント

  1. フェイク・アニ より:

    チュロス!
    がはは、参ったか!
    チュロスですから、皆さんお間違え無きよう!

    ま、それはさておき美しさ、疾走感、屈折度、喪失感。
    当時の何者でも無く、只の厄介な22才の若者だった僕を代弁し抱擁してくれた、まるで宝石のように大切なアルバムですね。
    ロバート・スミスも先日4/24に51才を迎えましたが、イギー・ポップと同じ誕生日だとは…笑える。

  2. r-blues より:

    チェロス
    ぶはは、そうきましたか(^o^)/