最後のハード・ロック・バンド〜ガンズ・アンド・ローゼス『アペタイト・フォー・ディストラクション』(1987)【食わず嫌いロック】#35

アペタイト・フォー・ディストラクション

Guns N’ Roses

“Appetite for Destruction” (1987)

ハード・ロックの歴史は、60年代末のレッド・ツェッペリンの登場に始まり、ガンズ・アンド・ローゼスでその完成を極めて終わったと、わたしは思っている。その後のハード・ロックはオルタナティヴ・ロックやヒップホップなどの要素も取り入れ、ヘヴィ・ロックというまた違ったものへと変貌した。

本作はそんな歴史的なトドメの傑作であり、「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」や「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」「パラダイス・シティ」など、極めてとっつきやすいハード・ロックの名曲が収録された、内容充実の名盤だ。世界で3千万枚を売るメガヒットとなったのも納得できる。

なのにわたしは困ったことに、このアルバムを当時から、そして現在に至っても、好きになれずにいるのである。

もともとハイトーン・ヴォイスやハード・ロックのスタイルが好きではなかったということもあるけれども、最近の食わず嫌い克服で自信をつけ、今回あらためて挑戦し、繰り返し聴いてみたけれども、「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」は良いなとは思うものの、他はやっぱり好きにはなれなかったのだ。

聴きながら、その昔、ガンズの好きな友人が言っていたことを思い出した。

その友人はわたしが好きなオルタナティヴ・ロック勢があまり好きではなく「全体にボヤーっとして、どの辺がいいのかわからない音楽」と評したのだけれども、たぶんその真逆のイメージが、メインストリーム・ロックの象徴のような存在、ガンズ・アンド・ローゼスなのだろう。確かにガンズは「全体にヴィヴィッドでくっきりしていて、どの辺がいいのかよくわかる音楽」と言えるだろう。そして前者は基本ネガティヴだし、後者はポジティヴの極みでもある。

その比較から、ついでにお笑い芸人・永野の有名なネタ「ゴッホより、普通に、ラッセンが好き!」を思い出した。

何十億という値がつくらしい大画家か知らんけども、ゴッホみたいな子供が描いたようなわかりにくい荒っぽい絵よりも、ラッセンのような目にも鮮やかな美しさを、高い技術で描いたわかりやすい絵が好きなのが「普通」だから、と言い切ったところが共感を呼んでウケたのだ。

わたしは永野のファンで、このネタもいいところを突いてるなあと感心したのだったけれども、しかしわたしはそのラッセンの絵は大嫌いなのである。美術史上一番嫌いと言っても過言ではないほどに。

やはりわたしはなんにつけても、少数派なのだろう。
病気なのかもしれない。

この【食わず嫌いロック】のシリーズで取り上げた中で言えば、モーターヘッドやAC/DCなどの方がわたしの好みである。たぶんガンズとほとんど同じ理由で、レッド・ツェッペリンもわたしは昔から少々苦手なのだ。
見事に構築され、高い技術で磨き上げられた、洗練された作品よりも、いびつでも素朴な剥き出しの生命力みたいなものがわたしは好きなのだろうと思う。きっとそういうことだ。

この記事を書きながら、2023年のガンズ・アンド・ローゼスのライヴ映像をYouTubeであらためて見てみた。

還暦もすぎて丸々と太ったおじさんになっていたアクセル・ローズやスラッシュの姿に、いかにもロックスター然とした、カッコつけたイケすかない奴らという昔のイメージもすっかり消え失せていた。

しかし同じ時代を生き抜き、若くもなく、昔のようにカッコよくなくても、なりふり構わず頑張っている姿に初めて共感を覚え、応援したい気持ちにさえなったのは事実だ。

(Goro)

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