世界中で利用されまくったタイトル曲〜ジョン・レノン『イマジン』(1971)【食わず嫌いロック】#36

イマジン:アルティメイト・コレクション(1CDエディション)(SHM-CD)

John Lennon
“Imagine” (1971)

たかだかロック・アルバムについて書こうというだけなのに、これほど厄介に思える作品もない。

なにしろタイトル曲は、これまで散々世界中で利用されまくり、手垢にまみれてしまった。特にリベラルを自称する”ドリーマー”たちに。ブログなんかでこの曲を取り上げようものなら、「ああ、そっち系の人か」と思われても仕方がないほどにだ。今やこの曲に平然と触れられるのは、途方もなく能天気なお人好しぐらいのものだろう。

その昔、若かった頃のわたしは「イマジン」を歌詞も含めて素晴らしい名曲だと信じていた。
でもそう思うことができなくなったのは、結婚して、娘が生まれたことによる。

どの親も同じだろうが、自分の命と引き換えにでも守りたいと本気で思えるものができると、人はもはや非現実的なユートピアを夢想する”ドリーマー”ではいられなくなるのだ。現実を直視して、対策を講じようとする”リアリスト”にならざるを得ない。

わたしはジョン・レノンを素晴らしいアーティストだと思っているし、ビートルズ時代にもソロ時代にも好きな曲がたくさんある。

たとえその内容に共感できないにしても、彼が「イマジン」を歌ったことを批判しようなどとはもちろん思わない。それが非現実的な夢想だとしても、自分の思うところを素直に歌っただけで、ロックとはそもそもそういうものだ。むしろ彼は、偽善や思想の道具に楽曲を利用されまくってきた、被害者だと言える。その図々しい利用は、彼の死後にも延々と続けられている。

このアルバム自体も決して悪くはない。反戦歌もあれば、ラヴソングもあれば、ポール・マッカートニーの悪口もあるが、歌詞をそこまで真剣に聴いたり考えたりしなければ、素朴で美しい曲が多い、聴きやすい作品だ。本作に収録された「ジェラス・ガイ」はジョンのソロ曲ではいちばん好きな曲だ。

なにしろ困るのは、このアルバムをただ取り上げるだけなのに「わたしはあっち系の人ではない」と、こんなふうに綿々と言い訳がましく説明しなければならないことである。

(Goro)