名盤100選 24 サム・クック『グレイテスト・ヒッツ』 (1998)

グレイテスト・ヒッツ

ソウル/R&Bの天下無双、といったらわたしにとってはこの人のことだ。

サム・クックはそのキレの良い声に尽きる。これ以上のヴォーカルはまだ聴いたことがない。
甘い歌もベタベタせず、シリアスな歌には心を揺さぶられる。
もともとはゴスペル歌手なのだがブルースを歌っても悪くない。「リトル・レッドルースター」などは絶品である。

昔、彼女に会った後の帰途に車を運転しながらこのアルバムをよく聴いた。
満ち足りた気持ちとけだるい体の感覚に「ユー・センド・ミー」がぴったりだった。

サム・クックはなぜかロック・ファンに好かれる。
ロックンロールはもともとブルース/R&Bから生まれたには違いないのだが、ロック・ファンは意外にソウル/R&Bが苦手だったりする。わたしもどちらかというとそういう傾向がある。

でもそれは、70年代のソウル/R&Bがその根っからの商売っ気であまりにダンスの方向へ行き過ぎ、ある時期からR&Bはリアルな魂のない音楽に成り下がったように思えるからだ。
ロック・ファンは基本的にシリアスなので、そういう能天気で中身のないものが耐えられない。
でもサム・クックの時代(1950~60年代)にはまだソウル/R&Bにはホンモノの魂があった。
オーティス・レディングなどもそうだが、白人の若者たちが思わず正座して聴いてしまうような、これがホンモノだぞ、という説得力のある歌があったのだ。

サム・クックはそのヒット曲の大半を自分で書いている。
ソウル/R&Bの世界ではそういう人はあまり多くないと思う。メロディ・メーカーとしての才能もまた素晴らしい。
その名曲を多くの白人・黒人、それに黄色人種(トータス松本や桑田圭祐など)までがカバーしている。わたしはとくにアニマルズのカバー「ブリング・イット・オン・ホーム・トゥ・ミー」を愛してやまない。

サム・クックにはもうひとつ、『ライヴ・アット・ハーレム・スクエア・クラブ』という名盤もある。
20年以上前にこのレコードをわたしに貸してくれたのはG-大将だった。
このライヴ盤ではハーレムという場所で水を得た魚のようにハイ・テンションで、大はしゃぎで、心をこめて歌うサムの姿が実にリアルに残されている。
わたしはダビングしたカセットテープを何年も何年も愛聴した。

サム・クックは1950年、19歳でソウル・スターラーズというゴスペル・グループの一員としてデビューし、1957年、27歳で「ユー・センド・ミー」でソロ・デビューした。
そして1964年、33歳のときに、売春婦らしき女を連れ込んだモーテルで金と服を盗まれ、裸で女を追いかけているときにモーテルのフロントにいた白人の女性支配人に銃で3発撃たれて死んだ。

しかしこの死の真相には謎が多いらしい。
ヒット曲を連発していたスター歌手の死の真相がよくわからないというのもわれわれには理解できないが、スター歌手だろうがなんだろうが、加害者が白人で被害者が黒人という殺人事件には多くの調査や情報公開を必要としない、と考えられていた時代の話だということだろう。

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コメント

  1. r-blues より:

    あの~湯~、せんみ~
    私は強いて言うとsoulはスタックスのファンなんですが、Sam Cookeはいい歌、多いですよね。
    「どの町まで行けぇば~」なんてニンヤリする日本語カバーもされて…

    でも、「I have a dream」の牧師さんより前に亡くなってるんですね。ストラトキャスターにローズ指板モデルが出る頃!

    亡くなった時期時代を細かく刻んで見てみると、
    感慨深いものがありますね。
    …先日ラジオでマーヴィン・ゲイの特集をやってて、同じように思いふけました。