名盤100選 73 パブリック・エナミー『パブリック・エナミーⅡ』(1988)

パブリック・エナミーII

このブログでラップグループのアルバムを取り上げるのはこれが最初である。そして最後である。
だって、ヒップホップ知らないんだもん。
このアルバムはわたしが唯一好きになって繰り返し聴いたヒップホップのクラシックアルバムである。

わたしが子供の頃、CDはまだなくて、レコードだった。
レコードというものは大切に扱ったものである。
家庭にあるもので、レコードほど大切に、優しさにあふれた手つきで扱われるものはなかったほどだ。
レコードはちょっとのことでも傷がついて音にノイズが出る。一度傷を付けたら二度と修復できない。せっかくの音楽が台無しである。だから指紋すらつかないように、盤の縁を両方の手のひらの腹でそっと挟んで、そおっとプレーヤーに乗せたものだ。
静電気が付いててもノイズが出るので、専用のスプレーをひと吹きして、クリーナーで拭き、そして最後はレコード針そのもので傷をつけないよう、慎重に針を下ろす。
昔は音楽が、それぐらい大切に扱われていたものである。

だからこそDJの、あのスクラッチとかいう手法は衝撃的であった。
レコードを直接手のひらでべったりと触って、力づくでガリガリシュルシュルと前後に動かしたりする。
うわ。
ひどい。
やめて。とめて。
なんて暴力的なのだろう。
まるで大事に育てられた箱入り娘が、獣のような黒人に蹂躙されているみたいだった。
それはそれは興奮したものだ。

当時わたしはこのアルバムに、聴いたことのない新鮮な感動をおぼえた。
わたしはたぶんこれをプログレみたいなものと捕らえて、そのオリジナリティあふれるサウンドに食いついたのだと思う。
最新テクノロジーと原始的な手作業、社会派のシリアスなテーマと音楽を切り貼りする遊び心によって、混沌とした馬鹿馬鹿しさとリアルな戦闘態勢が重量級のサウンドで暴力的に迫る。また、そのスピード感は初期パンクロックが持っていた闇雲な疾走感が帰ってきたようだった。
みなぎるエネルギー、みなぎるフラストレーション、二十歳のわたしはついついテンションが引っ張られてだだ上がりであった。

スパイク・リー監督の傑作映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』などともリンクして、これからはこれだな、ぐらいに思ったものだったけれど、ちょうど同時期にグランジが出てきて、わたしはそっちのほうへ流れていってしまったのだ。それ以来ヒップホップとは疎遠になっている。
すまない。

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